星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 それから私たちはチョコレートを食べたりお喋りしたりして兄の返信を待った。

 掛けっぱなしにしてたラジオからは、もう何度目かの往年の歌姫のクリスマスソング。

『私が欲しいクリスマスプレゼントはただひとつ、貴方だけ』

そんな歌詞が今の私の気持ちを盛り立てる。


「寒くないか?」


 時計の針が11時を回って久しくなった頃、霧雨の降る窓の外を見ながら先生が言った。


「うん、マフラーあるし」


 私の応えに先生は頷く。

 そしてこちらに手を伸ばし、私の肩のマフラーに触れた。


「良く似合ってる」

「ありがとう」

「こちらこそ、使ってくれてありがとう。

……ね、南条?」

「ん?」

「昼間ここで俺お前のことナンパしたろ?」

「ん?あぁ…」


『お嬢さん、ひとり?だったら俺とデートしない?』

って声掛けられたっけ?


「他のヤツがそういうこと言っても…付いてくなよ?」

「え?」


 暗い車内では先生がどんな表情をしているのかはっきり分からない。

 でも、先生が心配してくれてること、私を大切に想ってくれてることが分かる。


「行くわけないよ」


 だって私は先生が良いんだもん。先生しか駄目なんだもん。

 私はちょっと笑って応えた。


「大学受かったら南条は春から東京に行くだろ?
 南条のこと、応援してるけど…でも正直俺、ホントは凄い心配なんだ」


 先生はこちらに向き直って言う。


「その時は向こうの知り合いみんなにお前のこと頼んどくつもりだけど、実際のとこ毎日傍に居られるわけじゃない」


 先生が私の右の頬に手を当てた。

「あ、もちろん気持ちだけはいつだって南条の傍にいるよ?」

「え…」


 甘い台詞にドキッとするのも束の間、先生はちょっと顔を寄せて被せるように言う。


「でも心配なんだ」


 射し込んだ街灯の灯りに真剣な瞳が煌めく。


「寂しい思いしないかとか、生活のこと困らないかとか、悪い人間に狙われたりしないかとか」

「……」

「それに…俺から気持ちが離れてしまうんじゃないかとか」

「え…」

「頑張ってる南条を応援しなきゃいけないのに、こんなこと考えるべきじゃないのにな。ごめん」


 先生は少し寂しげに微笑み、頬に当てられた先生の掌がそっと離れた。
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