星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

「はいじゃあ今日の授業はここまで。インフルエンザが流行ってるから気を付けてね」

 夕刻の塾で、授業が終わり講師の先生が教室を出ていく。


「ユウトぉ!」

 直ぐに清瀬くんの友達が教室に彼を迎えに来る。


「おぅ。ちょっと待ってて」

 清瀬くんが応える声がすると、後ろから頭をぽんとされた。


「じゃな舞奈、またな」

「あ、うん。またね」


 先週は清瀬くんと顔を合わせるのに緊張したけど、今日はもうそんなことはない。


 とは言え、彼の優しさに甘えて傷付けてしまったはずであることにどうしても負い目は感じてしまう。

 勿論、清瀬くんの方には傷付いている風な様子は少しも見えないけれど。


「ん?」

 ドアの方へと視線を向け掛けた清瀬くんが私の方を二度見する。


「お前まだ『くま』バッグに付けてんだ?」

「あ…これ」


 清瀬くんにゲーセンで貰ったくまちゃんが私のバッグからこっちを見ている。

 外すには忍びなくて、今も毎日一緒に登校しているくまちゃん。


「もしかして俺にまだ未練あんのー?」

「違うもん!くまちゃんには罪はないから付けてんだもん」

「俺を罪人みたいに言うな!」

 清瀬くんがくまちゃんをぱちんとデコピンする。


「もー!やめてよー!」

「あはは。んじゃなー」


 清瀬くんが笑いながら教室を出ていった。


(私も帰ろ)


 清瀬くんから少し遅れて教室を出た。


 と…


「あ…」


 廊下の壁に女の子が寄り掛かってこちらを見ていた。

 西高の制服。

 清瀬くんの友達のひとり、確か奈穂子ちゃんだ。


 会釈して通り過ぎようとすると


「…ねぇ」

「!」

 奈穂子ちゃんが声を掛けてきた。
< 241 / 316 >

この作品をシェア

pagetop