星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

「え…と…」

「ユウトから聞いた。あなたのこと」

「え…」

「あなたがユウトの初恋の人だってこと。
 あなたが失恋した時にユウトが告白して付き合ったこと。
 その人と上手くいってユウトと別れたこと」

「……」


 何かばつが悪くて、返す言葉に詰まる。


 私が黙っていると、

「それから…」

と、俯いて廊下の隅に眼を注いでいた奈穂子ちゃんが顔をあげて続けた。


「これは憶測だけど…傷心のあなたがユウトに救われていたこと」

「!」


 奈穂子ちゃんが壁から身体を起こし、一歩私に近付く。


「もしかして、ユウトに悪いなって思ってる?」

「……」

 私は素直に小さく頷いた。


「だったら気にしなくていいよ」

「?」

「ユウトはあなたのこと本気で好きだったんだと思うから。
 だって私1年の時からユウトを知ってるけど、あんなユウト、見たことないもん。彼もあなたが辛かった時に役に立ててたなら本望だと思う。

 それにね…」


 そう言って奈穂子ちゃんが小さく微笑む。


「あなたにとってユウトが救いになったように、今度は私が傷心のユウトを救うから」

「え…」

「付き合ってるの。
 1週間過ぎたけど『別れよう』って言われてないんだ」

「あ…」


 そうだ…

 清瀬くんは告白してくるどの女の子とも『1週間お試し』なんだった。


「だからね、心配しないで。ユウトのことは私がちゃんと幸せにするから!」


 奈穂子ちゃんは満面の笑みで言う。
 それはそれは最高に強くて美しい、幸福に満ち満ちた女の子の笑みだった。


「うん」

「あなたが気にしてるんじゃないかって、それだけ気になったから。
 じゃ私行くね。ユウトが待ってるから」


 奈穂子ちゃんが廊下を駆け出していく。


 私はその背中を見送り、思う。


(あぁ…良かった)


 あんなに優しい清瀬くんが、大切な幼馴染みが幸せで。


 私はくまちゃんにそっと触れ、ボールチェーンをぱちんと外す。
 くまちゃんは今夜からクローゼットの小学校の卒業アルバムと共に眠る。

 きっとそれがいい。


(くまちゃんバイバイ。それと…

 清瀬くん、おめでとう!)


       *   *   *
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