星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 冬休みも夏休みと同じく年末年始の数日間は完全に学校が閉まってしまい、教室開放も休みになる。

 その直前の28日の夕方。
 私はいつものように先生と英語準備室にいた。


「先生、お正月は東京に帰るの?」

 私の隣に座る先生に訊ねる。


「うん、1日だけね。あとはこっちにいるよ」

「お仕事?」

「ん、休みの間にやっておきたいことが結構あるから」

「そっか」


 折角の休みでもそれじゃあ先生に逢えないかな…

 まぁ私も受験直前で、そんなこと言ってるわけにはいかないのだけど。


「それに…」

「?」

 残念に思って少し俯いた私に、先生が続ける。


「南条と初詣行かなきゃならないし」

「えっ?」

「合格祈願、しなきゃでしょ?あ、そんな暇ないか」


 私は慌てて首をぶんぶんと振った。


「めっちゃ暇!初詣行くっ!!」


 必死な私を見て先生はぷっと吹き出す。


「受験生がめっちゃ暇じゃまずいでしょ」


 でも笑いながら、

「じゃあ初詣行こうな」

と頭を撫でてくれた。


 髪を梳くように滑る指が心地好い。
 その少し擽ったいような感覚に、胸の中もどこか気恥ずかしいように高鳴る。


「先生…」


 先生を見上げた瞳が自分でも分かるほど熱っぽいのに気付いて、恥ずかしさにますます鼓動が早まってゆく。


 不意に先生の手が止まる。

 ばちりと合った視線。
 先生の鳶色の瞳も私のそれと同じに熱を帯びて見えた。


 私の髪に触れていた先生の掌が後頭部に回り、引き寄せられるように眼と眼が近付く。


(どうしよう…学校なのに…)


 いけないことと思うのに、それが余計に煽情する。

 鼓動が最高潮に達して、私は身体を強張らせた。


 先生の唇が静かに開く。



「…帰るか」


「え…?」


「ここに南条とふたりでいると、俺、教師として駄目な感じになる」


 先生は困ったように微笑んでもう一度私の頭を撫でると、椅子から立ち上がった。


(先生、私も先生とふたりでいると、すごい不良少女になっちゃう気がするよ…)


 ちょっと名残惜しい気もしながら私はコートを羽織り、先生と準備室を出た。

           *
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