星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 年が明けて1月3日。

 突き抜けるような晴々とした空の下。
 白いコートに白いマフラー、それから青い石の指輪。私は電車を乗り継ぎ揺られること数十分、新春の街に出向いていく。

 着いた先は県庁をはじめ官公庁に程近いオフィス街にある駅。ホームから見下ろすとまだ三ヶ日とあって閑散とした街に澄みきった青空が眩しい。


「南条、こっち」


 改札を出て直ぐ目の前に建つスタイリッシュなオフィスビルのエントランスに先生の姿を見つけ、私は大きく手を振った。


「先生、明けましておめでとう」


 先生の元へ駆け寄ると

「おめでとう」

先生が手を差し出す。

 私がその手を取ると、ふたり歩き出した。


「ね、先生。なんでここにしたの?もっと近くにも天神さまあるのに」

「あんまり近いと学校のヤツに会うでしょ?」

「あー、そっか」


 先生に誘われてふたりで初詣。合格祈願も兼ねて天神さまに行こうとここまでやって来た。

 立ち並ぶビルの間の道をしばらく歩くと、どこか街にそぐわない幟が立っているのが見える。


「あ、あった!」


 真新しいガラス張りのオフィスビルの向こう側。高いビルに阻まれた空が一角だけぽっかりと切り取られたように見える。その真下、ビルとビルの谷間に天神さまのお社があった。


「こんなとこに神社があるんだね」


 今日はまだ初詣で多少人が行き来するけれど、きっと普段はもっとひっそりとして、鳥居の前を通ってもうっかり見過ごしてしまうだろう。


 繋いだ手を解くと一礼して鳥居をくぐり、綺麗に掃き清められた参道を拝殿に向かう。


「ほら、手出して」

 手水舎で先生が柄杓を掲げる。

「ありがと…きゃ!冷た」

 氷のように冷たい水に震えると先生はくすっと笑う。

「ホント冷たいんだよ!先生もやってみなよ」

 唇を尖らせて先生の柄杓を取り上げると水を掬って先生の手にかける。

「うゎ!これは、冷たいってより痛い」

「でしょ」

 先生はポケットからハンカチを取り出すと私の手を拭いて、それから自分の手を拭いた。


 拝殿には前に何組か参拝客がいて、その後に並んで参拝する。

 ガランガラン…
 鈴を鳴らして二拝二拍手。


(無事外大と国大に合格できますように…)


 手を合わせ強く強く願う。

 先生と私の夢を叶えられますように─


 左薬指の指輪が冬の白い陽射しを反射してキラリと光った。
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