星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
「何してんだ、そんなとこで?」
やにわに背後から声がした。
私の胸が大きく鼓動する。
その声の主が誰かは、顔を見なくたってその声だけで分かった。
(先生!)
合宿以来だからもう3週間ぶりくらいになる。
逢いたかった…
学校に自習しに来ていたのも、先生に会えるかもしれない、という気持ちが本音だった。
自分では認めないようにしていたけれど…
「先生は何してんですか?」
逢いたかった気持ちを悟られないように、平静を装って先生を振り返る。
「俺?俺は仕事だよ。
お前らは夏休みでも俺は毎日学校来てんの」
半袖のポロシャツ姿の先生が腕組みをして見下ろしている。
「私も夏休みなんてありません。受験生ですから。学校も毎日来てます」
顎を上げて返す。
「んー素晴らしいね!」
その言い方が英語の先生っぽい表現だな、となんとなく私は思った。
「南条はどこの大学受けるんだ?」
先生が尋ねる。
正直あまり訊かれたくなかった。
「国大…」
「へー。優秀じゃん」
「…行く気ないけど」
「え?志望校でしょ?」
「親のね」
私の言葉に少し驚いたように、先生の大きな瞳がぱちぱちと瞬く。
「じゃあ南条が行きたい学校はどこ?」
先生が言葉を変えた。
でも私の答えは…
「んー…ないかな?」
「ないの?」
「…うん」
先生が首を傾げて私を見ている。
その瞳は夏の陽射しが反射して煌めいて見えた。
私は胸の内まで透かして見ようとするような先生の澄んだ視線に抗えず、なんとなく今まで揺花以外には話したことがないことが口をついて出た。
「国大も親の希望で受けるけど、上手いことギリギリで落ちるつもり。
そのくらいのテクニックができるくらい国大の模試も点数良いし」
「勿体ないな」
「やりたくないことやって生きる人生の方が勿体ないと思ってるから」
「そういう意味じゃないよ」
そう言って先生は少し笑った。