星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
「…仁科先生」
「ん?」
「先生に伝えてください。
南条はセンターの出来も凄く良くて、今本試験の追い込み頑張ってる、って」
私は顔を上げて、仁科先生を真っ直ぐ見上げた。
ホールの入口の欄間に嵌め込まれたカットガラスが陽の光にキラキラ輝くのを背にした仁科先生が、満面の笑みで満足げに笑う。
「御意!」
(仁科先生、ありがとう)
「ねぇ?仁科先生は私と先生のこと、いけないことと思わないの?」
「あー…」
仁科先生は天井を見上げてちょっと考えると、ゆっくり口を開いた。
「教師と生徒の前に、人間と人間じゃん?人間と人間が出逢えば気が合ったり合わなかったり、ましてや男と女なら恋に落ちることもあるのは自然だろ?」
「!!」
仁科先生って、産休代理だし他の先生に比べて真剣さが足りないと思ってたけど…
(ホントはなんか凄い器が大きいのかも…)
「それに俺、頑張ってるヤツ見ると無条件に応援したくなる質なわけよ。
くぅー!いいなぁ、道ならぬ恋!燃えるね!俺もJKと恋に落ちたいーッ!!」
「……」
…うん、やっぱり教師としては真剣さが足りないよね。
それから仁科先生は
「頑張れよ!」
と親指を立てて見せると、「あー!青春だなぁ」なんて言いながら職員室の方へ戻っていった。
一人になったエントランスホールで、私はカットガラス越しに外を見上げ眼を細める。
瞬く陽光は白く冷たく、まだまだ長い冬が終わらないことを冷淡に告げている。
冬の間は先生に逢えない。
でも、春が来たら…
春が来たらその時は─
『南条、俺はね、春になったらお前を迎えに行くし、その後もずっと傍にいるよ』
先生が迎えに来てくれるって、信じて待っていても良いですか?─
稜角のプリズムを通った光が床に虹を落とす。私はそれを拾うみたいに手を伸ばす。
虹は私の手をすり抜けて、掴もうとしてきゅっと握ったそれを七色に染めた。
まるで白い冬が早く終わるのを願うみたいに。
* * *