星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
『14番線東京行き、間もなく発車します』
昼過ぎ、私は特急に乗り込み、窓際の席に座った。
(意外と混んでる…指定席取ってて良かったぁ)
車内は満席。私の隣にもビジネスマンらしき人が座る。
今日はこの街も厚い灰色の雲に覆われて底冷えするほど冷え込み、時々山の方から風花が舞ってくる。
東京は昨晩から既に雪が降っていて、都心でも積雪しているという。
列車がゆっくりと動き出し、私を連れてこの街から離れていく。
窓の外は次第に街を抜け、畑になり、山になり、を幾度か繰り返し、やがて海が見えた。海も空に溶け込むように鉛色だ。
再び海が山に隠れると雪が降り出した。
(寒…)
膝に掛けたコートを肩まで引き上げる。
綿帽子のように雪を被った木々の間を抜けると、真っ白な畑地が広がり、合間にぽつぽつと人家が増えていく。やがて辺りはすっかり住宅街になるけれど、家々の屋根もみんな一様に白く、景色はモノクロ写真のように見えた。
モノクロの街に少しずつ大きな建物が増え、いつの間にか私の街よりも大きな街になっていく。
その街も今日は銀世界。巨大な高層ビル群もみんな無彩色で、電車から見下ろす広い道路に列をなす車のテールランプの赤と込み合った人々の傘の彩だけがやけに派手派手しかった。
『まもなく、終点、東京です。
お乗り換えは中央線、山手線、京浜東北線、東海道線、横須賀線、総武線…』
私は窓におでこをくっ付けて食い入るように外を見る。
東京の街。
先生が生まれ育った街。
私の知らない先生を知っている街─
電車はビルに囲まれたホームに滑り込み停車する。
『東京、東京です』
ホームに降り立つと身震いするほど寒い。
大勢の行き交う人たちもみんなコートやダウンの首を竦めて、エスカレーターでいそいそと地下に潜っていく。
私は手袋をはめた指先にはぁ、と息を吹き掛けた。
ホームから見た東京は雪の中。降りしきる雪も重く大粒で眼に映るもの全てが白の中に埋もれていくみたいだ。