星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
「南条はさ、やってみたいこととか、好きなこととかないの?」
「んー…それもない、かな?」
「ひとつも?」
「…うん」
「小さい頃とかは?」
「親の言うように学校の先生になるものと思い込んでたから」
「そうか…」
先生は顎に手を当て、何か考え込んだ。
二人で黙り混んでしまうと急に蝉時雨が大きくなったように思える。
それは激しい耳鳴りのように私の思考を停止させる。
ひとところを見つめて何か思案している先生に対して、私はぼんやりと先生の長い睫毛が美しく瞬くのをただ見つめていた。
やがて先生が口を開く。
「やっぱ、なんか夢があるとさ、人って頑張れたり、気持ちが救われたりすると思うんだよ、俺は」
先生は私の隣に来て、私と同じように石垣から下に脚を投げ出して座った。
「だから俺、南条にも何か
『これは好きだなぁ』とか
『やってみたいなぁ』とか
思えることがあって欲しいと思うんだ」
先生が優しい笑みを浮かべて私を見る。
「だからさ、俺、」
言葉を切った先生の美しい瞳に、真剣さが宿る。
「それを南条と一緒に探したいと思う」
「!!」
先生の言葉は優しく手を差し伸べるようであり、でも決して逃がさないような強さがあった。
(私と?一緒に?)
先生が一緒なら何でも出来そうな気がする。
でも…
そんな甘い思いを簡単には信じられないくらい私は既に傷付いていた。どうせ力で抑え込まれてしまうんだ…
「…そんなの見付けても、うち、親が認めないから。」
「うん。確かに10代の南条が何かやりたいと思ったら親御さんの許可がいるよな。
でもさ、本当に好きなことのためだったら何もしないで最初から諦めないでしょ?」
先生が少し顔を寄せ、私の顔を覗き込む。
先生の透き通るように輝く瞳に私が映る。
「例えば、まずご両親を説得してみようとか、条件を出してもらってそれをクリアしようと頑張る、とか、何かするじゃない。
まずね、そのくらい頑張ってでも手に入れたい大切なことを見付けるんだ」
先生の瞳も声も優しく美しいのに、それは熱意に満ち満ちていた。