星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

「今年度内はまだ当校の生徒として在籍しているので、最後までその自覚を持って行動すること。それから万一事故等の際は31日まではここに連絡し、4月1日からはこちらと進学先にも連絡のこと…」

(話長いな…)

 欠伸を噛み殺しながら何気なく机に手を突っ込んだ。


 カサ…


(あれ?)

 空のはずの机の中で何かが手に触れた。
 折り畳んだ紙の感触。摘まんで取り出してみる。

 出てきたのは小さなメモ。手の中で広げてみた。


『卒業おめでとう
 それから、外大合格おめでとう』


(あ…!)

 この字…!


 ドキドキと鼓動が高まる。
 見慣れた文字。大好きな。
 名前は書かれていないけれど、間違いなく先生からの手紙だ─


(先生、知ってたんだ)

 私の合格の報告を村田から聞いてたんだろう。


 メモには続きがあった。


『4月1日、午前7時 文教台駅前で待ってる』


 私が先生の生徒じゃなくなる日の朝、先生の家の近くの駅で待ち合わせ─


 私はメモを胸に当て、眼を閉じた。

 あぁ、先生と私の春は、未来は確実に近付いている─


(先生…もうすぐ先生と一緒になれるよ)


「今日で高校を卒業することにはなるわけだが、まだ入試がある者もいると思う。結果が出るまで浮かれることのないように。
 早速何か浮かれているのもいるみたいだがな」


 いつの間にか席の間を周回していた村田が私の横で立ち止まった。


(やば…)


 まだもうしばらく。

 4月1日、私が先生の生徒じゃなくなるその日まで、私もチューリップの蕾みたいに春を待ちながら、もう少しだけ寒い冬を乗り越えるんだ。

           *
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