星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
「会いたかった?」
「…別に」
逢いたいのは確かだけど、今は逢えない。ましてや学校でなんか。
卒業証書を受け取る彼女の晴れやかな姿を見られただけでも十分だと思わなくては。
「久しぶりに会いたいかと思ったけどそうでもないんだ?」
にっしゃんが俺の顔を覗き込もうとするので、俺はふいと顔を背けた。
ぶっちゃけ南条とは久しぶりでもないしな…
「あ、今のは『会いたいわけでもないんだ?』じゃなくて『久しぶりでもないんだ?』ってことね」
「え…?」
「ん?」
いやらしいほどの笑顔でにっしゃんがにっこりする。
「そう言や初原くん、先月お祖父さんが危篤で東京帰ってたんだって?具合どぉ?」
「あ…ぁ、まぁ…お陰様で」
南条が気になって東京に行くための方便で、祖父はピンピンしてるんだけど。
「先月と言えば受験シーズン真っ只中で…ん?確かアイツも東京の大学受けてたんじゃなかったっけ?」
にっしゃんがいやにわざとらしく俺の耳元に口を寄せて言った。
「!」
「まさか向こうでばーったり会ったりとかぁ…」
「……ッ」
「なーんてそんな世界は狭くないかぁ」
「……」
「とか言って意外と狭かったりしてね」
「!」
にっしゃんは可笑しそうにくくっと喉を鳴らして笑った。
(まさかマジで気付いてる…?)
「…用がないならもうあっち行けよ」
「えーっ!初原せんせーったらつれなーい」
キーンコーンカーンコーン…
にっしゃんが唇を尖らせた時、予鈴が鳴った。
「朝礼始まるよ」
「ちぇー」
にっしゃんが残念そうに自分の席に戻って行く。