星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
「せんせーさようならー」
「はい、さようなら」
午後の授業が終わった3時過ぎ。
いつものように廊下で行き違う生徒に挨拶しながら英語準備室に向かう。
(南条どうだったかな…)
デスクにパソコンを広げ、立ち上がりを待ちながら思う。
(メールくらい、してもいいかなぁ…)
…いや、駄目だろ。
あの時、『別れよう』なんて、何のために彼女を傷付けたの?
傷付けたくせに自分勝手に東京まで追いかけて、強引にもう一度君と気持ちを通い合わせて、もう少し、もう少しだけ、春が来るまでは待とう、と確認し合った。
狡いやり方は君には似合わない。
そんな君に見合うように俺も、ほんの3週間程のことだ、真っ当に待たねばならない。
正々堂々と、君に逢いたい。
パソコンに向かい授業に使うプリントを作成していると、ドアがノックされた。
「失礼します」
ガラガラと開いた扉からは意外な人が姿を見せた。
「…村田先生?」
国語科の村田先生がここに来る理由が思い浮かばない。しかも、外から戻ったばかりなのか先生はコートを羽織っている。
「初原先生、ちょっと」
いつもながら捉えどころのない表情で言いながら先生は俺のデスクの脇へと歩んで来た。
「先生に進路指導をお願いしている私のクラスの南条ですが…
今朝国大の入試に向かう途中事故に遭いました」
「えっ!?」
(南条が…?事故に…?)
眼の前に立つ村田先生の姿が、準備室の景色が途端に暗転する。
(南条!!)
呼吸が早まり、嫌な心悸が打ち鳴る。無意識に胸を押さえた手がネクタイとシャツの胸元をクシャクシャと握り締める。
『ん、大丈夫だよ。私にはいつだって先生が付いてるし、心配してない』
記憶の中の南条の微笑みが閃いて、その無邪気さが一層俺の胸を締め付けた。