星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

(どうしよう…)


 答えの見つからない問いに押し潰されるみたいに、3人部屋の病室のベッドのひとつで縮こまって座る。


 出来ることなら悪い夢ならいいのに…


 夕闇迫る病室はその無機質さを一層際立てて、物悲しさを煽る。

 立てた膝に顔を埋めた。
 どうしてあの時避け切れなかったんだろう、どうしてもっと早く家を出なかったんだろう、なんて、今更考えてもしょうがない後悔を一人胸の中で何度も繰り返す。


 頑張ってきたつもりだった。
 きっと夢を叶えるんだって、先生の期待に応えるんだって思ってた。


(でも私は結局、何にもなれなかった…)


 枯れ果てたと思った涙がまた溢れ、膝に掛けた布団のカバーに染みを作る。
 湿って心地悪いそれに顔を埋めると遠くの雑音が遠退いて、病室の寂しいほどの静けさがますます私を孤独にした。



 不意にベッドを囲う象牙色のカーテンがさらりと揺れる音が幽かに聞こえた気がした。


(誰か…通った?)

 顔を上げると同時に


「南条」


「…!」


懐かしい声に胸がぎゅっと掴まれる。


(先生…!)


「南条、入っていいか?」

「……」

「南条?」

「……

 …ごめんなさい」

「え?」

「…ごめんなさい。夢、叶えられなくて…ごめん、な、さ…」

 最後は声が震えて、掠れて消えた。


(先生ごめんなさい…私、最後まで頑張りきれなかった…

 先生はいつだって私を支えてくれたのに、私…私、応えられなかった…)


「…南条入るぞ」

「…あ、駄目…」


 こんなどうしようもなく駄目な私は先生に逢う資格なんてない…


 なのに先生はしゃっとカーテンを捲って私の前に姿を現す。

 優しい微笑みを湛えて。


 私は居たたまれなくて膝の上の掛布団を頭から被った。


「何やってんだ」

 先生はベッドサイドに寄ると笑って言った。

「……」

「怪我はどうだ?」

「……

 …ごめんなさい」

「……」


 布団の中で身を固くする。
 今は逢えない。

 否。もう、逢えない。


 夢を失くした私は先生には見合わない。
 そんな笑顔は私なんかには勿体なさ過ぎる…

 いっそもう早く出て行ってくれたらいい。
 私が泣いて縋ってしまう前に。
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