星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
「ねぇ南条。どうして俺がお前のために協力してきたか分かる?」
「え…?」
「お前と同じだよ。俺がしたかったからしたの。お前は関係ない」
「…先生」
「誰のためでもない。自分のためにしてきたこと。
南条だってそうだろ?」
「…ん」
私はようやくこくりと頷いた。
「自分がやりたいと思って、自分が夢を叶えたくて頑張ってきた。誰にも謝る必要ない」
「…うん」
「ましてや自分の夢が不可抗力とは言え志半ばで倒れて、今一番辛いのは南条でしょ。
なのに俺に悪いって泣いて、どんだけ優し過ぎなの?」
「あ…」
私は自分の顔がすっかり泣き腫らしているのを思い出して、慌てて両眼をぐいと手の甲で拭った。
「だから、ねぇ南条。泣いていいよ。俺のためにとか誰かのためにじゃなくて自分のために泣いていい」
「……!」
先生の手が私の頬に触れ、親指が涙の跡をそっと辿る。
「今は目一杯泣いて、そしていつか泣き止んだらそれからまた頑張ろう?その時まで俺が全部受け止めるから。
そして、次に南条がどんな生き方を選んでも俺はまた応援する。そうしたいんだ」
「せん、せ…」
熱くなった瞳の中に映るもの全てがゆらゆらとぼやけていく。
先生の顔も白く霞んでいく。涙の欠片が弾けて崩れるまでの間のほんの一瞬、私の大好きなきらきらの笑顔が閃光みたいに鮮やかに見えた。
「せんせ…わたし…」
先生の首に両腕を絡ませて抱き付いた。先生の首筋はどこからか走ってきたみたいに少し汗に濡れていた。私は構わず顔を埋める。
先生は私を抱き留めるように背中に腕を回す。「ずっと傍にいるよ」って体現するみたいに。
「先生、私っ…頑張って…頑張ってきたつもり、だったの!なのに…なのに…」
「うん、分かってる。分かってるよ」
私の声にならない声に先生は何度も頷く。頷く度に背中に回された手に力が籠る。
「せんせ…が、いたから、私、頑張れた…のに…私…」
「うん」
「だか、ら…これからも…傍に…いて…?」
「大丈夫。傍にいるよ」
「ずっと…傍に…いて…」
「ずっといるよ」
「せん、せ…!」
力いっぱい先生の胸に抱き付く。私の頭の後ろを先生は大きな掌で掻き抱いた。