星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 店を出ると再びふわりと春の陽射しに包まれる。


「そうだ、南条」

 先生が思い出したように私を呼んだ。


「ん?」

「村田先生に聞いたよ。


 外大、進学おめでとう」


「あっ、うん!ありがとう!」



 先生が病院に来てくれたあの日の夜。父が病室を訪れた。

『お父さん…』

 父が姿を見せるや、私はベッドの上に正座して頭を下げた。


『ごめんなさい!

 もう一年…もう一年だけチャンスを下さい!!』


 他に思い浮かぶ手はなかった。それでも父がそれを認めてくれる確信もなかった。でも、一縷の望みを懸けて懇願した。それしかなかった。


『舞奈』

 ベッド脇の円椅子に父が腰掛ける。

『顔を上げなさい』

 いつもながらの厳格な父の重々しい声。私はそろそろと顔を上げる。


『この半年間、自身を振り返ってお前は何をやって来た?』

 眉間に皺を寄せた父の視線が私を射抜く。


『私…は…』

 ここで怯んではいけない。

『自分の出来る精一杯を、やってきたつもりでした』

『……』

『毎日目標を立てて、それをこなしてきたし、お兄ちゃんや先生に進捗を報告してアドバイスももらって…あ!実際外大は受かってるし、国大の模試だってA判定に上がってるし!』

『……』

『だから、あの…』

『……』

 眉ひとつ動かさない父は娘ながら畏怖を感じる。


『舞奈』

 沈黙の後、父がおもむろに私の名を呼んだ。
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