星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
エピローグ
「16番線に到着の列車は15時11分発…」
降り立つホームは初夏の薫り。少し湿気た夏の気配を孕む午後の空気が私を包む。
「舞奈!」
私を呼び止める声。顔を上げるとその声の主と眼が合った。
「先生!」
柔らかな微笑みを湛えた先生が片手を挙げ、こちらに向かってくる。
「長旅お疲れ様。荷物持つよ」
そう言って私のボストンバッグを取り上げると、隣に立って歩き出す。
「1ヶ月ぶり?だね」
「うん」
「逢いたかった」
「うん」
「毎日電話してるけどね」
「あはは」
空いた右手で私の左手を握る。先生の指が私の薬指の指輪を確かめるように撫でてから、指を絡め取りしっかりと繋ぎ直した。
ゴールデンウィーク前半で人通りの多い階下の連絡通路を在来線ホームへと歩く。
「どこか行きたいところ、ある?」
「あ、うん。あのね…お買い物に行きたいなぁって」
「買い物?」
「あのね…ほら、連休中に先生お誕生日になるでしょう?何かプレゼントしたいと思ったんだけど何が良いか思い浮かばなくて。だから一緒に買いに行きたいなって思ったんだけど…」
ちらっと先生の顔を覗き見ると、ぱっちりした眼を驚いたように更に見開いて私を見た。
「よく覚えてたね?メアド変えたのに」
「そりゃ覚えてるよ」
先生はふふっと嬉しそうに笑う。
「でもさ舞奈、そういうの要らないよ」
「え?」
「舞奈が帰ってきただけで十分嬉しいし」
「えっ、でも…」
バイトの初任給、そのために大事に取ってあるのに…
「俺にとってはさ、舞奈と一緒にいられるのが一番のプレゼントだよ」
「…うん」
嬉しいんだけど…
(やっぱり子供扱いされてるのかな…)