星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

「じゃあ南条。気を付けて帰れよ」

「…はい」


 私たちは昼には図書館を出て、この後学校に行くと言う先生と駅で別れることになった。


(ホントはもっと一緒にいたい…)

 私は何か言葉を探す。



「先生…」

「ん?」

「あの…今日は、ありがとうございました」

「どういたしまして」

「……」

「……」


 でも何も話せなくて、とうとう会話が終わってしまう。


 いよいよ帰らなきゃ、と思った時。


「南条」


 先生が私を呼び止めた。


「分からないことがあったらいつでも俺に聞きに来いよ。大体英語準備室にいるからさ」


 逢いに行っていいんだ。

 いつでも…


「英語のことでも進路の相談でも遠慮なく聞いて。…あぁ、金の相談だけはされても無理だ」


 いたずらっぽい笑顔で言う先生に、私はふふっと笑う。

「はいっ!」


 私、先生の傍にいられるんだ。


 教師と生徒でいい。

 ただ、今あなたとこの優しい時間を分け合える、それだけでいい。



 改札口で先生が見送ってくれる。
 私が手を振ると、先生も振り返してくれた。


 ホームへの階段を軽やかな足取りで駆け上がる。

 白いワンピースの裾が風に翻る。風をはらんだスカートがふわり。
 ジャスミンとサンダルウッドがふわっと香る。


 階段の途中、私は風に導かれるように階下を振り返る。
 改札口の向こうで眩しそうに額に手を当てた先生が此方を見上げていた。
 振り返った私にもう一度手を振ってくれる。


(先生…)


 私も先生に手を振る。


 月曜日の一番に先生に逢いに行ってもいいかな?

 ううん!逢いに行くって決めた。


 少し後ろ髪を引かれるけれど、私は思い切って再び階段を駆け上がる。

 そしてホームのベンチに座りバッグの中から本を取り出した。


 図書館から借りてきた先生が薦めてくれた本。


 私は本を胸に抱き締める。


(私今…先生が、好き)


 ホームを熱い風が吹き、ワンピースをはためかす。

 それはどこか先生に熱せられて焦がされた私の想いのような風。


 私は風の中にそっと呟く。


「好き…」


     *   *   *
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