星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
時計の針が4時を指す。
(4時って夕方かなぁ…)
夏の4時はまだ日も高く明るい。
頭上には青い夏空が残る。
(うん、夕方よね!)
自分に言い聞かせるように強く思って、私は問題集とペンケースをスクバに放り込むと教室を出た。
行く先は勿論、英語準備室。
一階の廊下の一番奥のドアをノックする。
(どうか岩瀬がいませんように!)
祈りながら
「失礼しまーす」
と声を掛ける。
準備室には先生が一人でいた。
先生がパソコンの画面から顔を上げる。
「あれ?南条」
「先生、まだ忙しい?」
「…今何時?」
先生が腕時計を見る。
「もうこんな時間だったのか」
そう言って先生は溜め息を吐いた。
「もう帰りか?」
「うん。でも別に用事もないから…」
(…待ってても良いですか?)
私は先生の様子を覗き見る。
先生はまたパソコンの画面に視線を落として、まだ忙しそうに見える。
(迷惑…かな)
先生の横顔と手元をちらちら窺っていると、先生がこちらに顔を向けた。
「大丈夫なの?」
「え…」
「ちょっと待ってられる?」
「!…うん!」
「ごめんな、もうすぐ終わるから」
(待ってられる?って言われちゃった…)
私はちょっとドキドキしながら手近な椅子を引いて座る。
静かな部屋に時計と先生がキーボードを叩く音だけが響く。
私は頬杖を突いて、ただ先生の真剣な顔を見ていた。
鳶色の瞳とそれを縁取る長い睫毛。
頬から顎のラインと滑らかな肌。
それにかかる栗色の柔らかな髪。
全てが黄金比で出来ていると思った。
スクリーンを見つめる視線は凛とした大人のそれで、時々何か小さく呟く唇からは吐息に幽かな色気を含んでいる。
(いつも可愛いと思ってるけど…こういう時の表情、大人の男の人って感じでカッコいい…)
私の視線の中で先生が不意に顔を上げ、一瞬揺らめいた瞳の光が私に向く。
(あ…見てたのバレちゃった…)
「何?」
「う…ううん、なんでもない」
先生が再び目線を落とす。
好きな人をただ見つめていられる時間。貴重な時間。
今、先生を見つめていられるのは私ひとり。
(独り占めだ…)
この時間がいつまでも続きますように…
祈りながら先生の背中に胸の中で呟いた。
(4時って夕方かなぁ…)
夏の4時はまだ日も高く明るい。
頭上には青い夏空が残る。
(うん、夕方よね!)
自分に言い聞かせるように強く思って、私は問題集とペンケースをスクバに放り込むと教室を出た。
行く先は勿論、英語準備室。
一階の廊下の一番奥のドアをノックする。
(どうか岩瀬がいませんように!)
祈りながら
「失礼しまーす」
と声を掛ける。
準備室には先生が一人でいた。
先生がパソコンの画面から顔を上げる。
「あれ?南条」
「先生、まだ忙しい?」
「…今何時?」
先生が腕時計を見る。
「もうこんな時間だったのか」
そう言って先生は溜め息を吐いた。
「もう帰りか?」
「うん。でも別に用事もないから…」
(…待ってても良いですか?)
私は先生の様子を覗き見る。
先生はまたパソコンの画面に視線を落として、まだ忙しそうに見える。
(迷惑…かな)
先生の横顔と手元をちらちら窺っていると、先生がこちらに顔を向けた。
「大丈夫なの?」
「え…」
「ちょっと待ってられる?」
「!…うん!」
「ごめんな、もうすぐ終わるから」
(待ってられる?って言われちゃった…)
私はちょっとドキドキしながら手近な椅子を引いて座る。
静かな部屋に時計と先生がキーボードを叩く音だけが響く。
私は頬杖を突いて、ただ先生の真剣な顔を見ていた。
鳶色の瞳とそれを縁取る長い睫毛。
頬から顎のラインと滑らかな肌。
それにかかる栗色の柔らかな髪。
全てが黄金比で出来ていると思った。
スクリーンを見つめる視線は凛とした大人のそれで、時々何か小さく呟く唇からは吐息に幽かな色気を含んでいる。
(いつも可愛いと思ってるけど…こういう時の表情、大人の男の人って感じでカッコいい…)
私の視線の中で先生が不意に顔を上げ、一瞬揺らめいた瞳の光が私に向く。
(あ…見てたのバレちゃった…)
「何?」
「う…ううん、なんでもない」
先生が再び目線を落とす。
好きな人をただ見つめていられる時間。貴重な時間。
今、先生を見つめていられるのは私ひとり。
(独り占めだ…)
この時間がいつまでも続きますように…
祈りながら先生の背中に胸の中で呟いた。