星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 時計が間もなく5時を指そうという時、ガチャッと音がして英語教室との境のドアが開いた。

 顔を出したのは宇都宮だった。


「初原先生。あと戸締まりお願いしてもいいですか?」

「あ、はい」

「じゃ、お疲れさまです。…南条、早く帰れよ」

「はーい」


 それだけ言って宇都宮は出ていった。


(ん?)

『戸締まりお願いしても』?


 ってことは…

 宇都宮も岩瀬ももう来ない?


(って…今日はもう先生と…ふたりきり…)


 途端にますます鼓動が加速する。

 『ふたりきり』というワードにこんなにドキドキしてしまうとか、恥ずかしいんだけど…


 それでもつい潤んでしまう眼に先生の姿がキラキラと揺れてしまって、慌てて指の背で目元を拭う。


 この瞬間をひと欠片も残らず感じたくて、瞬きする間も惜しむように私はただただ先生の後ろ姿を見つめていた。


 やがて先生のキーボードを打つ手が止まる。
 先生は素早くマウスを操作して、

「よし、終わった」

とこちらを振り向く。


「待たせてごめんな」

 先生の優しげな視線が真っ直ぐ私に向けられる。


「ううん!全然!」


 先生と一緒にいられるだけで嬉しいんだもの。


 だって今は、今だけは。

 私だけの先生─
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