星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

「一昨日はどうだった?何か進路に役立ちそうなことあったか?」

「あ、うん。
 なんか突き詰めて考えるのとか好きだな、とか…。ちょっと好きなことの方向とか、見つかりそうな気がする」

「そっか。良かったな」


 先生が眼を細めて白い歯を見せ、心底嬉しそうに笑う。

 自分のことみたいに。


「とにかく好きなこと見つかるのが一番の目的だからな。
 将来どんな職業に就くかとかはオプションみたいなものだから。夢は変わっていいと思うし。

 実際俺もそうだし」

 先生が言う。


「え…?」


(先生、もともと先生になりたかったんじゃないんだ…?)


「先生はどうして学校の先生になろうと思ったの?」

「俺?」


 自分を指差す先生に私はこくりと頷く。


「大学でね、元々教職課程を取ってたんだ。先生になる資格を取る授業ね」


 私も家の関係で教職課程というのはもちろん知っている。


「別に教師になる気なんてなくて、ただ大学で何か資格を取っておこうと思っただけだった。で、俺の学科で取れるのはこれだったからなんとなく取っただけでさ」


 先生はいたずらっぽく笑う。

 とろけるような可愛い笑顔に、真面目な話をしてるのに私はつい

(可愛いな…)

なんて思ってしまう。


「それが大学4年の時、教育実習があってね。近くの高校に行ったんだ。
 で、そこで愕然とした。そこそこできる生徒たちがさ、全然喋らないんだよ」


 先生は机に肘を突いて両手を組み、急に真面目な表情になる。


「日本人の真面目さ故なんだろうな、完璧に自信がないとガツガツ喋るとかはしないんだよ。ましてや外国人相手になんて尚のこと。俺海外育ちだからさ、なんか違うな、と思って…

 これじゃダメだと思ったんだ。
 片言でもいい。でもまずコミュニケーション取ってみたい!って思えることが大事だ、と伝えたいと思った」


 先生はそう言った後、

「それが俺が教師になった契機《きっかけ》」

と、少し恥ずかしそうに笑った。
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