星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
「ホントは教師になんてならずに大学院に行って研究室に残るつもりだったんだ」
「研究室?」
「うん。やってた研究が凄ぇ面白かったのね。教授も好い人だったし」
「どんなことやってたの?」
「言語の変遷とか…。ほら日本語にもあるでしょ?今と昔で意味が違う言葉とか。」
「枕草子の『をかし』が今の可笑しいと違う、みたいな?」
「うん、まあ、そんな感じかな?あとは言葉の語源とか、そんな感じのこと」
「あ、私ね、子供の頃気になってたことあるの!」
「何?」
うふふ、と私が笑うと、先生が身を乗り出してくる。
「『道路』と『road』って言葉がなんか関係あるんじゃないかって。ほら、違う国の言葉なのに同じ意味で語感ご似てるでしょ?」
「ほぉ」
笑って流してくれればいいのに、先生は急に大真面目な表情で宙を仰ぎ何か考えて、それから私に、
「面白いね。『道路』と『road』の直接的な関係は分からないけど、ラテン語と東洋の言語については…」
とか言い出すので、
「ふふっ!」
と私は吹き出してしまった。
「ねぇ、先生。
その研究の話、聞かせて?」
「そんなの聞きたいの?」
そう言いながらも先生はどこか嬉しそうな声音だった。
「うん」
「長くなるかもしれないよ?」
「うん、いい」
「そうか…。じゃあ、何から話そうか?」
そう言って先生は学生時代の研究の話を聞かせてくれた。
私は先生の思いに引き込まれるように、先生の話を聞いていた。
話は難しいこともあったけれど、私が質問すると先生は「良い質問だね」と言って丁寧に答えてくれるし、先生がとても活き活きと楽しそうに語るので、私は先生の傍らで飽きることなくずっと聞いていた。
研究の話をする先生の瞳は宙の星を宿したようにキラキラと輝いていた。
それはやはりまるで少年のように…
そんな少年のような先生を見ていると、私もまた幸せだと思った。
いつまでも先生の話を聞いていたい。
いつまでもこんな先生を見ていたい。
いつでも先生が煌めいていられるように私に何か出来たらいい。
そして。
ずっとこうしてふたりきりで、時が止まればいいのに─
*