星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 昼休みの終わる頃。

 5時間目の生物は移動教室で、私と揺花は一緒に理科室に向かっていた。


「舞奈、私トイレ行くから先行ってて」

「ん、分かった」


 揺花と別れ、ひとり本校舎の階段を上る。

 理科室は中学生の教室の並びの一番手前にある。
 中学生ばかりが行き交う廊下を進んでいると、やはりここでも女の子達の視線を感じる。


(先生中学生に人気だからなぁ…)


 小さく溜め息を吐いた時だった。


「南条先輩…ですよね?」


 急に背中から声を掛けられた。


 声の方を振り返ると、切れ長の眼のショートヘアの子を中心に数人の女生徒たち。

 いずれも知らない子だけれど、中学生のようだ。



「初原先生に手を出さないで下さい」



 やにわにショートヘアの女の子がそう言った。


「え…」

「先生に色目使ってたらしこんだんでしょう?」


 敵対心丸出しの視線。平常心を失った下品な物言い。
 私は不機嫌な溜め息を吐く。


「初対面の人に、ましてや歳上に口を利くときはまず自分から名乗りなさい。

 それから、真偽も分からないことにいきなり攻撃的なものの言い方をするものではないわ。まずちゃんと事実を確認するべきよ」


 私は彼女の顔を真っ直ぐ見て言った。
 自分でも意外なほど落ち着いて冷静な声で。


 私が言い返してくると思わなかったのだろう。彼女は一瞬驚いた顔をして、それから不満げにぼそぼそと、

「中学3年2組の落合です」

と、名乗った。


「落合さん。私は高校3年1組の南条です」

 素直に名乗った彼女に私も答えてあげる。


「先輩が先生に抱きついてキスしてたって本当ですか?」


(一応事実確認もするんだ。意外と素直なのね)

 なんて、私はどこか他人事のように頭の片隅で思ったりしていた。


「いいえ」

「でも!夏休みに校庭で先生と抱き合ってましたよね!?私の友達が見たんですけど!」

「あぁその件?


 それは事実です」
< 58 / 316 >

この作品をシェア

pagetop