星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 彼女が黙りこむと同時に始業のチャイムが鳴った。


「でも…」

 取り巻きの一人が食い下がる。


「そういう先生の性格が分かってて、先輩が上手いこと先生を誘惑したってこともあり得ますよね?」

「もしそう思うならあなたもやってみたらいいわ。先生はどの生徒にも分け隔てなく接して下さいますから、あなたの思うようになるんじゃない?

 授業が始まるので失礼したいんだけど?」


 中学生たちは一様に項垂れる。
 うっかり論破してしまったのは、冷静な口調とは裏腹に多分私頭の中は実は激昂していたんだと、後になって思った。気付かないうちに嫌な汗をかいている。


「おい、教室に入れ!」

 中学の先生たちが廊下の角から姿を現す。


「舞奈…行こう」

 彼女たちが引き上げていく背中を見ながら、私は揺花に手を引かれて理科室に入っていった。



『先生はどの生徒にも分け隔てなく接して下さいます』─


 先生は私のこと

 生徒として、仕事として接していた。


 他の生徒と同じように。


 だからきっとあの子達にも、夢の素晴らしさを説き、泣き崩れてしまえばあの広い胸で抱き締めるんだ。


(そんなの…

 嫌…)


 黒い感情が胸に渦巻く。
 誰にぶつけたらいいのかも分からない胸が灼けるような感情。


 今の汚い私を先生に、あの日逢った夢を語る眩し過ぎるまでに輝く先生に、どうか見られませんように、とただ祈った。

       *   *   *
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