星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
「…村田先生」
私が呼び掛けると村田が顔を上げた。
「あの…進路のことで…」
「あぁ…」
村田がペンを置き、ファイルから資料を取り出す。
「南条は国大教育学部以外の志望校はどうするんだ?」
「受けません」
「滑り止めとかもあるだろう?」
「親が国大以外認めませんから」
「まぁお前の成績ならそれも問題ないだろうがな。じゃあ結局国大でいいな?この間は随分と抵抗していたが…」
「…なんでもいいんで」
「……」
投げやりな私の言葉に村田がうんざりしたように眉間を擦る。
「お前の人生だ。俺は構わないけどな」
「……
村田先生には…分からないです。」
「じゃあ誰になら分かるんだ?ん?」
村田の眼が蛇のように私を捉え、口元だけで笑う。
「幸せは努力もなく誰かが運んできてくれるわけじゃないぞ」
「そんなこと思ってません」
「親の勧めは拒否するのに、幸せを運んでくれそうな者には追従する、と。
将来の夢は白雪姫か何かか?」
「…っ!」
悔しさに前歯を食い縛る。
私のことだけでなく先生のことまで…
不意に村田が私の腕を取り、ぐいと引き寄せた。
「!!」
「ちょっと来い」
村田は私の耳元で言うと、椅子から立ち上がる。そして私の腕を掴んだまま職員室のドアへと向かう。
「せんせ…!?」
「やっぱりお前にはちょっと話をしておこう」
職員室を出ると既に生徒たちの姿がなくなった薄暗い廊下をずんずん進んでいく。
階段を一階上がり、一番近くの選択教室の前で立ち止まる。そのドアに手を掛けながら村田は言う。
「お前の人生だとは言ったが、そのお前の選択が親御さんや、俺も含め学校に少なからず影響することを肝に命じとけ。入れ」
村田ががらがらと引き戸を開ける。