星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 その時、その音に混じって誰か階段を駆け上がる足音が聞こえた。


「村田先生!」


「!!」


 村田を呼ぶ声と共に角から飛び出してきたのは


 先生だった。


「先生、私が言える立場じゃないのは分かってます。

 でもそれは…学校に迷惑かかるとか、そんなのは南条には関係ないことです!」


「先生…」


 先生が村田を強い視線で咎める。
 いつも爽やかで甘いマスクと声で私をきゅんとさせる先生が、今は別人のようだった。


 でもそれを村田は軽くかわし、冷たい微笑を浮かべる。



「若い人は理想や希望に溢れていて良いものだね。

 でも初原先生。学校というものは理想と希望だけでは成り立たないんですよ」

「……」

「学校経営というものを考えたことはありますか?」

「教育は商売じゃありません」

「でも学校の経営が成り立たなくなったら、これから未来ある若者たちを我々が育てることが出来なくなる。違いますか?」

「…っ!」

 先生が悔しそうに唇を噛む。


「そのためにも出来る限り上位の学校への進学率を上げる必要がある。それが出来得る生徒には相応の学校への進学を勧める。
 それは同時に生徒自身の将来のためにもなるわけですからなんら問題はないでしょう?」

「でもそれを南条は望んでません」

「では南条はどうしたいんですか?
 ん?南条?」


 村田が私の方へ視線を向ける。


「それは…」


 私はどうしたいのか…?

 自分でも分からないのに答えられるわけもない。


「未来のビジョンがないなら一つでも上位の学校へ行くべきだ。その方がいざ夢を見つけた時に叶えられる可能性が高まるからな。」


 村田の言うことは間違ってない。


 間違ってない…けど


 でも…



「…私」

 纏まらない頭で思わず呟く。

 先生と村田の視線が一斉に私に注がれる。


「私…


 東京の大学に行きます」


「南条!?」


「東京の外国語大学の英語学科で言語の変遷について研究します」

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