星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
「ありがとうございます。家庭の問題ですのに先生を巻き込んでしまって申し訳ありません」
「いえ。
じゃあ南条。君はどうしたいのか話してくれるかな?」
「私は…私は東京の外国語大学に行きたいです。
言語の変遷とか成り立ちとか、あ!あと語学を勉強して国際社会の役に立つことについて考えようと思ってます」
咄嗟に『国際社会』なんてもっともらしいことを付け加えてみたけど、先生は見抜いていて、父に分からないくらいちょっとだけニヤッと笑った。
「如何ですか?お父さん?」
母がお盆に紅茶のカップを乗せてリビングに入ってきて、カップを置くと父の隣に座る。
「我が家は代々国大教育学部から教員になっております。今舞奈の上の息子がまさに国大に通って教員を目指しているところです」
「舞奈さんは教職に就くことは考えておられないようですが?」
「これはまだ子供ですので、分かっていないのでしょう。
教師という仕事は女性にこそ天職と思っております。
産休育休を取ってもまた復帰出来ますし、近年公立校は特に女性職員へのバックアップに力を入れております。家内を見て頂ければお分かり頂けるでしょう」
「どうだい南条?お父さんはこう仰ってるけど?」
先生は父の言葉に一つ頷いてから、私に眼を向けて訊ねる。
「私は…やりたくない仕事の為にわざわざ復帰したいとかも思わないし…
そもそもやりたくない仕事の為に頑張って勉強しようとかも思わないし。
私は…私の為に頑張りたい!
遠回りでも、大変でも、自分が決めたことを頑張りたいの!!」
「やりたくないかどうかはやってみなけりゃ分からんだろう!?」
父が声を荒らげる。
「嫌なことわざわざやってみて『やっぱり嫌だった』って確認する暇があったらやりたいことやりたいの!
私の人生だもん!あと70年?私は全部目一杯自分の為に生きたい!!」
今までがそうじゃなかったから。
そう言いかけて止めておいた。