星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
「お父さんお母さん、実は私は東京の外国語大学の出身です。
どうでしょう?外大からでも教職免許は取れますが?」
「先生もご存じとは思いますが、国大教育学部はこの界隈では名門中の名門。教職に就いた後も国大出身者は学閥がありますので、メリットも多い訳です。例えば待遇面であったり、昇進であったり」
「お給料も出世も要らない!
私は誰にも縛られない!自分の為に生きるの!!」
「舞奈、私やお母さんがこうして生きてきたからこそ今のお前があるんだぞ!勝手なことは言わせない!!」
私は父を睨み付ける。
父もまた威圧的な視線を私に投げ、隣にいる母も無言で私を咎めているように思えた。
「南条」
張り詰めた空気の中、先生が穏やかに話し出す。
「お父さんお母さんは将来、つまり後に続く君やお兄さんのことも考えて国大に行って教師になる、そういう生き方を選択したんだ。
決してそれを否定してはいけない」
「……」
「でも、その生き方を選択したのもまたお父さんお母さんご自身、ですね?」
「えぇ、そうです」
「はい」
父と母が口々に答える。
「では舞奈さんにも選択権が有っても良いんじゃないですか?」
「!!」
「先生はお若いので分かっておられない。
大切な娘が苦労するのを分かっていてみすみすそんなことさせるわけにはいかないでしょう」
「私にとっても南条は大切な生徒です。
私自身教師としてこの仕事の良さ、素晴らしさは理解しているつもりです。
でも良さは人それぞれです。
もっと他のところに魅力を感じる、その為にならどんな努力も厭わない、そのくらい愛しているものがある子に私は自分の価値は押し付けられません」
「私の娘だ!君に何が分かる!?」
「では『先生』はご自身の教え子に『親の意向と自分の夢が違う』と相談された時にどうご指導なさいますか?親御さんの言うことを聞け、と仰いますか?」
(先生…お父さんを『先生』って言った…)
先生は淡々と喋っているようで、実際はかなり激しているのが私には分かる。
「…かつてそういう子がいました。」
その空気を割るように、二人とは対照的にか細い声で言ったのは母だった。