星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
「お母さん…?」
「まだ私が20代の頃です。画家を目指していた元気な明るい子でした。
私なりにその子の後押しをして、なんとかご両親を安心させるよう話もしに行きました。
でもとうとう説得することは出来なかったんです」
先生も私も、そして父も、唐突に始まった母の話に耳を傾ける。
「結局彼はご両親の勧める学校に上がりました。
でも、数年後たまたま会った時にはすっかり痩せて人が変わったように大人しくて、かつての輝きもなくなっていて…
結局学校も辞めてしまったようでした。
それにもう、絵も描いていないと言っていました」
「……」
「舞奈には幸せになって欲しい。無駄な苦労はさせたくない。
でも毎日をキラキラと生きて欲しい。
何年も何年も沢山の若者たちの旅立つ様を見てきましたが未だに分からないんです。
我が子のことになると盲目になってしまうんですね。ねぇ、あなた?」
母が父を見る。
父は黙って唇を噛んだ。
私は気付かないうちに視界が滲んで、溢れた涙が頬を伝って膝の上に重ねた手の甲に落ちた。
「舞奈」
父が私を呼ぶ。
「…はい」
「国大は簡単入れる大学じゃない。
お前が国大に行きたくない理由は、受験から逃げたいわけじゃないんだな?」
「はい。
私は…東京の大学に、行きたい!」
「国大に受かれ」
「!?」
「両方受かればお前の好きな方に行かせてやろう」
「!!
…お父さん!」
「お母さん、構わないかな?」
「家を出るのはちょっと心配だけど…
でも、いつもあまり我が儘を言わない舞奈がそこまで言うなら、それが良いんでしょうね」
「…ッ!
おと、さん、おか、さん、ありが…」
喉に詰まったみたいに言葉にならない。
「わた、し…国大も、外大も…ぜったい…がんばる…」
母が私の傍に寄って肩を抱いてくれた。
涙の向こうで先生がにっこり微笑み、紅茶のカップを手にするのが見えた。
* * *