星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 後ろから車が来て、車道側にいた先生が少し私の方に寄る。
 私は先生の方へちょっと手を伸ばす。

 先生と私の振れた手の甲同士が幽かに触れた次の瞬間、私は先生の手をきゅっと掴んだ。


「!…まずいって」

「大丈夫。うちの学校、この辺から通ってる人少ないから」

「そういう問題じゃ…」


 そう言いながらも先生の掌は私を拒まず、逆にそっと握り返してくれる。


 優しく温かい掌。

 指先から伝わる温もりに心臓がトクントクンと反応する。


 藍色の空に一番星。

 暮れなずむ街をふたりで手を繋いで歩く。


(昨日から夢の中にいるみたいだな…)


 こんなに何もかも上手くいって、ホントに夢なのかも。


 今はそれでもいいや。

 先生と傍にいられるなら。
 この温もりを感じていられるなら。

 夢でも覚めないでいて─


「今日の成果はどうだ?」

 先生が訊ねる。

「成果?」

「家庭訪問の感想は?」

「んー?」


 先生がうちに来て、お父さんとお母さんに会ってくれて…


「プロポーズみたい、と思った」


「ぶっ!」

 先生が吹き出す。


「そういうことを訊いてるんじゃない!結果、外大受けられることになってどうかってことだ!!」

「なんだ。そんなことか。嬉しいよ、もちろん。
 でも、先生にはいっぱい迷惑かけちゃったけど…」

「そんなことは良いよ」

「良くないよ」

「良いんだよ。

 だってお前は俺の…」


 先生は言葉を切って、私を振り返った。

 煌めく水晶のような瞳が真っ直ぐこちらを見る。


『だってお前は俺の』─

『俺の』…何?

 先生にとって私は何?


 間が妙な期待を煽る。
 胸の高鳴りに目眩がしそう…
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