星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

「お前は俺の『妹』だろ?」


「へっ!?」


 胸のドキドキがさっと退く。


『妹』って…

 何…?


「だってお前、俺のこと『妹のように思ってくれてる』って言ってたろ?」

「え…?」

「ほら、中3の落合に。覚えてない?」

「あ…」


 夏休みが明けたばかりの頃、理科室の前で中学生に絡まれた。確かにあの時私はそう言った。


(先生…聞いてたの!?)

 それはそれで頬が熱くなる…


「親身になって、時間を割いて手助けして、包みこんでくれる。そう言ったろ」

「……」


 正直本音じゃなかった。
 中学生にぐうの音も出させないためのはったりだった。


 でも先生は私の言葉をもっと真剣に捉えていたんだ。


「南条は俺のことを信頼してくれた。

 正直応接室の面談の時、一度は手を退こうと思ったんだ。『それが南条の為なんだ』なんてもっともらしい言い訳をして、ホントのとこ俺は逃げたんだと思う。

 それでもお前は俺を信頼してくれた。

 だからあの時─村田先生の進路指導の時もお前のこと何とかしてあげたい、しなくちゃいけない、と思った。

 その信頼を裏切りたくないと思った。


 それに何より…

 出来るなら俺がお前と一緒に夢を探して、叶えてあげたかった」


 先生はいつにも増して優しく微笑む。

 まるで小さいものを慈しむように。


「もし今日はそれが出来てたなら、
南条の役に立てたなら良かった」

「先生…」


 役に立てた、なんてそんなこと!
 私、『感謝』なんて言葉じゃ表しきれないくらい感謝してるよ!!

 それに『妹』だって、私のことを近しい存在に思ってくれていることが凄く凄く嬉しいんだよ!


 上手い言葉も見付からなくて、私はただ繋いだ先生の手をぎゅっと握った。


「それと…まぁ、その、なんだ…

 正直ちょっと、村田先生に妬けたってのもあったんだけど…」

「え?」

「いや、なんでもない」

 先生が咳払いした。


 駅舎が見えてくる。
 今日はここでお別れ。


 でも、いい。

 私は『妹』だから、また明日も逢える。


 私たちはどちらからともなく手を離す。


「ね?『妹』って恋愛対象外ってこと?」


 切符を買う先生に訊ねてみる。


「ばっ…!何言ってんだよ!」


 先生はそれ以上応えず、

「また明日な」

と後ろ手に手を振って改札の中に消えて行った。


「また明日も…明後日も…
 ね?」


 私は周りも気にせずスキップで家路を辿った。


 国大入試まであと約4ヶ月─


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