星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 夕刻。

 私は今日も英語準備室で勉強している。
 あまり入り浸っているのが知られるといけないので長くは居られないから僅かな時間。

 だけど、毎日の幸せなひととき。


「先生ありがとう」

 私は今日の勉強を切り上げて、参考書やペンケースをスクバにしまいながら言う。


「あぁ。
 あ、そうだ。南条さ、金曜の放課後空いてないか?」

 採点済みの小テストを揃えていた先生が顔を上げる。


『空いてないか?』って…

 お誘い、だよね?


「空いてます!」

 もちろん即答する。期待に胸がときめいてしまう。


「会わせたい人がいるんだけど」

「え…」


 なんだ。

 ふたりきりじゃないんだ…


 なんて、小さく落胆したりして…



「俺の大学の同級生で、大学院に残ったヤツがいるんだけどさ。週末こっちに学会で来るらしいんだ。
 大学の話も、東京での生活についても現役学生の生の話が聞けるし、良いかと思ったんだけど、どう?」


 先生は優しい。
 いつも私の為を思ってくれるんだ。

(嬉しいな)


「はいっ!行きます!!」


 私は目一杯の笑顔で応える。
 先生はそれににっこり頷いてくれた。


 金曜日、学校外で5時に待ち合わせ。進学関係なのでもちろんやましい内容ではないのだけど、別々に学校を出て外で落ち合うということにした。

 でもそういう『こそこそ逢う感じ』に少しぞくぞくするような背徳感を感じてしまう。


(私、悪い子かな?)


 そんな気持ちが思わず顔に出てしまった?


「南条、にやにやして何考えてんだ?」


(あ、バレた)


「えへっ」

 ちらっと舌を出して誤魔化し笑いする。


「…可愛い顔して誤魔化しやがって」


 先生は呆れ顔で小テストの整理に戻る。

 けど…


「ん?
 先生!今『可愛い』って言った!?」


「えっ!?いや…
…もうさっさと帰れ」


 溜め息混じりに言う先生の横顔はほんのり紅く見えた。

       *   *   *
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