星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 金曜日の放課後。

 私は終鈴と同時に学校を出る。


 別にそんなに急いで出ないと間に合わないわけではないのだけど。
 でも、早く先生に逢いたい気持ちと、万一途中で、まして学校を出る前なんかに先生とバッティングしちゃったらどうしよう、というはらはらに後押しされて居ても立ってもいられなくなった。


 電車に乗り、2駅目のいつも降りるターミナル駅を今日は通過する。

 そこから更に4駅。県内随一の繁華街の駅で降りる。


 待ち合わせは南口改札。まだあと30分以上ある。


 私は駅ビルに入り、パウダールームに直行する。

 大きな鏡と明るい照明のパウダールームは白いタイルが一層白く、誰でも女の子をお姫様に変身させてくれる魔法の空間に見えた。

 ひとつ空いたスツールに腰掛け、小さなメイクポーチを取り出す。

 いつもは日焼け止め程度でほとんどノーメイク。

 今日は特別。

 ちょっとだけ、ちょっとだけ可愛い私でいたい。

 だって学校の外で先生と待ち合わせなんてめったにないんだから─


 少しだけ緊張する指でリップを塗る。
 頬と額をティッシュで押さえて、髪を念入りに梳かして。
 それから、いつもはお気に入りのワンピースと一緒にクローゼットの籠に大事にしまってあるパープルの小瓶のオードトワレをふわりと纏う。


 ちょっとは可愛くなれたかな?

 先生の隣を胸張って歩ける私に…

 なれてるといいな。


 パウダールームを出る時、私の隣でメイク直しをしていたブレザー姿の女子高生と同時になった。

「お待たせ~!」

 彼女はパウダールームの前に待たせていた彼氏らしき人の腕に飛び付き、ふたり腕を絡ませて去って行く。


(制服デートかぁ…)


 ちょっと…羨ましいな、なんて。
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