星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 私の家は両親とも教師をしている。

 祖父も曾祖父も教師。
 伯父や伯母、大伯父、大伯母、従兄弟達も教師だらけ。
 代々、名門地元国立大学教育学部卒の教員一家。


 私も兄も後に続くのが当然のように育てられてきた。
 そして、兄が今まさにそこで学んでいるところだ。

 自分自身もまた、教師になるものと子供の頃から思っていた。

 勉強は嫌いじゃなかったし、実際今も国立受験クラスに在籍している。


 でも兄を見ていて、

「それでいいの?」

と疑問が浮かぶ。


 機械いじりが趣味で工学部に行きたかった兄。
 それが精鋭揃いの教育学部で苦労している姿を見ていると…


 私だってやりたいことがなかったわけじゃない。

 小さい頃から本が好きだった。

 新しいことを知るのが楽しくて仕方なかった。
 分からないことを調べると次から次へと疑問が湧き、更に調べるのが楽しかった。

 だから今までにも気象予報士や歴史学者なんかに憧れたこともあった。

 でもそれが私に許されるわけではないのを子供心に分かっていたから、どれも本気になることはなかった。

 でも…


 私はこれでいいの?


 親の希望だけで生きていくの?


 波風立てない方が楽なのは知っている。

 そんなに子供じゃない。


 でも言われた通りやって誉められるだけで嬉しいほど子供でもない。


 悩みを両親に打ち明けたこともある。

 返ってきた答えは

『うちは教師になるのが一番良い』。


 遅れてきた反抗期。

 自分でもそう思う。
 私はあまりにも今まで素直過ぎた。
 というより大人の都合良く育ち過ぎた。

 そんな私に大人の方も慣れてしまっているから今更反抗しても力で抑えようとするだけだった。


 一人悩むうちに、なんだか色んなことがだんだんどうでも良くなってきた。


 例えそれが自分にとって大切なことでも。


 このまま流されて生きればいい。


 自分の意思など無くただ周りが言うままに生きればいい。


 生きているのか死んでいるのか分からないままただ日々をこなせばいい。


 そしていつか、そうして生きることさえも疲れたら、


 生きることをも止めればいい─



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