星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 南口に着くと5時ぴったりで、でもまだ先生の姿はなかった。
 目まぐるしく変わる映像広告の付いた柱の前で先生を待つことにした。


(早く逢いたいな…)


 自動改札に行き交う数多の人の中を、眼が無意識に先生を探す。

 約束の時間を5分遅れて、グレイのウィンドウペンチェックのスーツを着た先生の姿をようやく見つけられた。


「ごめん、遅くなった!」

「私は大丈夫。でもお友達待たせてるんでしょ?急ご!」

「あぁ」


 先生が先を歩き、半歩斜め後ろを私が付いていく。


 けれど、混み合う夕方の巨大な駅の構内を歩くのは困難で、先生と私の間を次々と人が通り抜け、見失いそうになる。
 人波を掻き分けながら必死に付いていくけれど時々先生が視界から消える。


(どうしよう。はぐれちゃう!)


 焦りかけたその時、人の向こう、少し前を歩く先生が振り返って立ち止まる。
 そして手を伸ばし、ようやく追い付いた私の手をぐいっと掴んだ。


「!!」


「はぐれるから」


 先生から手…繋がれちゃった。

 しかもこんなたくさん人がいる所で。


 途端に胸がきゅんとして顔が熱くなる。



 次の瞬間、また前を向いて歩き出そうとした先生が、


「あ…」


と再び足を止めた。

 先生は長い睫毛に縁取られた瞳をゆっくり閉じて瞬きする。


「先生?」

「あ…いや…」


 慌てたように歩き出す。


「どうしたの?」

「いや…なんでもない。行くぞ」


 先生は動揺を隠すみたいな素振りで、私から顔を背けるように人混みの足元を見て歩く。


「え、何?気になるよ…」


 私は隣から不安げに先生を覗き込む。


 先生の頬がほんのり紅くて、いつも以上に若く可愛らしく見えた。
 合わせた視線はどこか甘い潤みをたたえている。


「?」

「…あ、ごめん。不安になるよな。

 大したことじゃない。その…


『南条の匂い』がすると思って…」


「へっ!?」
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