ツンデレな後輩なんて99.9%好きにならないから!
朝とはいえ、真夏である限り屋外は暑い…。
あーあ。また、言えなかった。
「それにしても、あついわ…」
と、呟きながら部室の裏にある倉庫を開ける。
暗くて埃っぽい倉庫には、
古くなったボールやコーン、折り畳みの椅子などがギュウギュウに積まれている。
あたしは、中に入って、テントを手に取る。
あれ?重たい…。
思ってたより、重たいじゃん!
紐で縛られた、テントの骨組みが重たすぎてビックリする。
簡易テントだと思って舐めてた…。
とりあえず、ひきずるようになんとか、引っ張り出す。
これを、洗うには広いグランドの向こうの、
校舎の方まで持っていかなければならない。
絶対ムリでしょ…。
「ほんとに、しょうがない人ですね。」
声がして、振り返ると広瀬が立っていた。
「はぁ?バカにしてんの!?」
と、つい睨んでしまう。
それを、気にも止めず、広瀬は涼しい顔で
骨組みを全て、抱えるように持つと、
「しょうがないから、手伝います。
これは、俺が持ちますから、観月さんは、そっちを運んでください。」
そして、テントの畳まれた屋根の布の方を指差した。
「あたし一人で全然大丈夫だし!それに、自主練は?」
「観月さん、一人に任せておくのは心配ですから。」
と、また可愛いげのない仏頂面で答える。
…。
これは、広瀬なりの優しさなんだろうか…。
そんな、ことをボォーと考えていると、広瀬が先に歩き出した。
そして、こっちを振り替えって
「ほら、早く運びますよ」
と、声をかけてくる。
「うん。」
あたしは、駆け足で広瀬の横に並んで
「あのさ、ありがとね…。」
うつむきがちに言った。
「昨日も今も…。昨日ちゃんと言えなかったから助けてくれてありがと…。」
なんだか、改めてお礼をいうなんて、照れ臭くて耳が熱い。
「素直な観月さんなんて気持ち悪いです。」
はぁ!?
せっかく、お礼を言ってあげたのに!と
怒鳴ろうと彼の顔を見ると、
普段、無表情な顔が少し赤らんでいて。あたしから、視線をそらした。
ほんと、コイツも素直じゃないな…。
こんな顔もするんだ。
そういえば、いつも喧嘩ばっかりでお礼なんて、
素直な言葉を言ったことなかったかもしれない…。
少し無言の間があったあと、
広瀬は、また真面目な顔で口を開いた。
「観月さん、昨日のこと気にしてるんですか?」
「え?ちょっと、あたしがお礼を言ってあげたからって心配してんの?
オーバーだな!気にしてないよ!てか、昨日の…。どこから聞いてた?」
「あの男が、大声で叫んでるのが聞こえて行ってみたら、観月さんがいました。」
校舎の前に着いて、水道に立て掛けるように、
広瀬は、丁寧に骨組みを置く。
「そっか。広瀬は入学してすぐのあたしの第一印象どうだった?」
あたしは、チラリと広瀬を見上げながら聞く
「チビ。」
「はぁ?シバく!」
広瀬を睨んだけれど、つい自嘲じみた笑いがこぼれた。
「でも、みんな広瀬くらいの感覚ならいいのにな…。
なんか勝手なイメージで印象で変な噂たてられて、女子に嫌われ男子に好かれる。
本当のあたしを否定されてるみたい…。あたしのこと知ろうともしてないくせに、勝手なことばっかり言われて、悔しくって…。」
彼の綺麗な切れ長の目がジッとこっちを見つめる。
「ごめん。後輩にこんな弱音吐いて…。今の忘れて!大丈夫だから!」
あたしは、その視線を避けるように慌てて言う。
「観月さんらしく普通にしてればいいじゃないですか。
勝手なこと言う人なんて無視ですよ。少なくとも俺はそうしてます。
人に合わせるのなんて疲れるし、自分らしくいてそれをわかってくれる人だけ側にいれば充分だと思いますけどね。まー、だから俺友達ほとんどいませんけど。」
真面目な顔で、あたしのことを慰めてくれる。
けど、最後の一言で思わず笑ってしまった。
「確かに!広瀬って雪代くん以外といるところ見たことないわ!
サッカーってチームプレーなんだから、みんなと少しは仲良くやりなよ!」
爆笑する私に、珍しく広瀬も少しだけ微笑んだ。
そして、
「少なくとも俺は、観月さんがチビで不器用で素直じゃない可愛いげのない先輩だってちゃんとわかってますから。」
そう言って、そそくさとグランドに向かって行ってしまう。
「可愛いげないのは、あんたもでしょ!!」
と、彼の後ろ姿にに向かって叫んだ。
ほんとムカツクな…。
でも、
素のあたしをわかってくれる涼香がいる。
仲良くしてくれて心配してくれる郁斗もいる、
部活のチームメイトだっている。
そして、まぁ広瀬もいる…。
あたしは、あたしでいいんだ!
そう思うと、とってもスッキリした。