ツンデレな後輩なんて99.9%好きにならないから!
部活が終わって、部員達がぞろぞろと部室へ着替えに向かう。
あたしと涼香はそのあいだ後片付けをするのが、部活の習慣だ。
涼香は、部誌を書き込みながら
「今日の颯真いつもより練習に気合い入ってたよなー。」
と、呟いた。
「雪代くん?いつも部活真面目にしてるから、わかんなかったわ」
あたしが言うと、
「いや、ランニングとかも今日はペース早めだったし…。
明日の練習試合のためかな?」
そんな事を話しているうちに、
着替えた部員達が次々とあたし達に挨拶して帰っていく。
時雨は、部室から出てくると
「お前らも明日は頼んだぞ。」
と、ひとこと言い
「あたりまえじゃん!あんたも練習試合とはいえ手を抜くなよ!」
と、涼香は言われていた。
それからしばらくして、広瀬と雪代くんが部室から出てくる。
「鳴海先輩、これ鍵です。俺たちで最後なんで。」
広瀬が部室の鍵を涼香に手渡す。
うちの部活では、マネージャーが部員の着替えが終わったあと部室を整理して施錠するのが、決まりになっている。
「サンキュ!じゃあ、また明日な!」
と部室に向かう涼香に
「あの、鳴海先輩!」
雪代くんが、声をかけ涼香が振り替える。
「ん?中に忘れ物でもした?」
雪代くんは、少し強ばった顔つきで一度、涼香から視線をはずしたあと
「違うんです。あの、明日の練習試合、俺活躍して絶対勝ちます。
だから、もし勝ったら明後日ある、花火大会一緒に行ってくれませんか?」
真剣な眼差しで、雪代くんは涼香をじっと見つめる。
涼香は、キョトンとした顔をしたあと、ニッコリ笑うと
「いいよ!みんなで行こう!」
え…。
嘘でしょ…。どう考えても、今のは二人きりでっていうお誘いでしょ!?
せっかく、雪代くんが誘ったのに。こんなのあんまりにも雪代くんが可哀想だ。
「涼香…。それは…。」
あたしが、涼香に言おうとすると、
それを、止めるように雪代くんは、小さく息を吐き
「はい。みんなで楽しみましょうね。明日頑張ります。お疲れさまでした」
と、優しく微笑んだ。
涼香は、
「おう!気を付けて帰りなよ!」
何て言って、何事もなかったかのように先に部室へ入っていってしまった。
あたしは、涼香が部室へ完全に消えていくのを確認して、
雪代くんに詰め寄る
「よかったの!?せっかく誘ったのに…。
みんなでって、あたしと広瀬もってことだよね!」
「いいんです。鳴海先輩が賑やかなの好きなのは知ってるし、
ちょっと鈍感なところもかわいいと思ってますから。
だから、勝手で申し訳ないんですが、観月先輩も一緒に来てくれませんか?」
そう言って、愛しそうに笑う雪代くんを見ていると、なんだか胸が痛かった。
ずっと一途に思ってるんだもん。なんとかしてあげたいな…。
「うん。雪代くんがいいなら。出来るだけ協力もする。」
「てか、なんで俺も勝手に一緒に行くとこにされてんだ?
俺は、騒がしい人混みとか嫌いなんだよ。」
広瀬が口を挟んでくる。
それに、ちょっと雪代くんは眉を下げた。
「広瀬も行こうよ!お願い!広瀬の好きな焼きそばもからあげもあるよ!」
「俺、やきそばもからあげもそんな好きじゃないぞ。」
しょぼーんと困った顔をしてる雪代くんを見て、あたしも
「雪代くんの友達でしょ。少しはあんたも協力してあげなさいよ。
あたしが、わたあめ奢ってあげるから。」
と、嗜める。広瀬は、ため息をつくと
「わかりました。行きますよ。
協力してやるから雪代もからあげ奢れよ」
雪代くんは、ありがとうと嬉しそうに目尻にシワを寄せて笑う。
それに対して広瀬はちょっとウザそうな顔をしながら、
「ほら、観月さんもいい加減部室に行かなくていいんですか?」
と、聞いてきた。
「あ、そうだ!じゃあ、お疲れ様!
雪代くんも明日の試合で結果出さなきゃ意味ないんだからね!
今日は、帰って早く寝な!」
あたしは、2人の背中を押して見送る。