ツンデレな後輩なんて99.9%好きにならないから!
さっきの、屋台の通りに戻るとやっぱり人が多くて酔いそうだ。
あれ、どっちから来たっけ?
そんなことを考えているうちに人にどんどん流されてしまう。
振り返ってもキョロキョロしても広瀬の姿がない。
ヤバイ。迷子かも…。どうしよう…。
ドンッ
いきなり、前から走ってきた子どもがぶつかってきて、
砂利道であたしの下駄が滑った。
ヤバイ!
そう思った時には遅かった。横向きに思いっきり転ぶ。
右足の下駄が少し先へ脱げて飛んでいく。
痛っ!
あたしが転んでも誰も気にもとめない。
浴衣の袖を踏まれ、飛んでいった下駄も道行く人が気づかず蹴り飛ばし
さらに遠くへ行ってしまう。
あたしは一瞬フリーズしてぼんやりそれを眺めていたが、慌てて体を起こす。
立ち上がろうとした瞬間、右足に激痛で思わずしゃがむ。
捻ったかも。捻挫かな…。
誰も助けてくれない。痛い。ほんとあたしのバカ。
急に泣き出しそうになる自分が嫌になる。
広瀬…。
「大丈夫?」
いきなり、手を差し伸べられハッと顔を上げると、
あたしの右足の下駄を持って、心配そうにあたしを見下ろす郁斗だった。
「郁斗!」
郁斗は、しゃがむとあたしの右足に下駄を履かせてくれる。
そして、半泣きのあたしを見て目を細めて微笑むと、
優しく頭を撫でてくれた。
いつも、郁斗が弟にやってるみたいに。ちょっと照れ臭いけど安心する。
「足、腫れてる。痛いでしょ」
そう言うと、郁斗はそのままあたしのことを持ち上げる。
いやいや、これってお姫様だっこじゃん!
「あたし重いし下ろして!それにこんなに人混みでこんなことしてたら目立つじゃん!」
「リンちゃんは、いつも羽のように軽いって!それに、痛いより目立つ方がマシじゃない?」
「でも、あたし転んでも汚れたから郁斗の服汚しちゃう!」
「そんなこと気にすんなって!」
そう言って、なっ!と笑う郁斗を見て仕方なく「ありがとう」と告げる。
「観月さん!!」
後ろから名前を呼ばれ、郁斗があたしを抱えたまま振り返る。
あたしを探してくれたんだろう、少し髪が荒れた広瀬が立っていた。
「なにやってんですか…」
「違うの、これはあたしが足を怪我しちゃって郁斗が助けてくれたの。
それで…。」
「なぁ、なんで君が付いててリンちゃん怪我して一人で泣くことになってんの?」
あたしの話を遮って、広瀬に言葉を向ける郁斗の目は鋭くて眉間に深いシワが寄っていた。声も今まで聞いたことのないくらい低い。
「郁斗、あたしが悪いから。広瀬は何も悪くないから。」
止めるあたしを無視して、
「花凛を困らせるだけなら、花凛に近づくな。
花凛はこのまま俺が連れて帰るから。」
そう言って冷たい視線を送る郁斗に、広瀬は下唇を噛んで俯きがちに
「すみません。お願いします」
と、頭を下げた。
おかしいよ。広瀬はなにも悪くないじゃん!
でも、黙って頭を下げる広瀬を見てなにも言えず、
胸がざわざわして、息苦しい。
広瀬に背を向けて歩き始める郁斗。あたしは抱えられたまま
後ろを振り返る。まだ、広瀬はこっちを向いて立っている。
ごめん。広瀬。
心のなかであたしは言えなかった言葉を叫んだ。