ツンデレな後輩なんて99.9%好きにならないから!

男子side



☆☆☆☆☆☆☆広瀬柊晴side☆☆☆☆☆☆



「やるじゃん!」

そう言って、目を輝かせて嬉しそうに笑ってりんご飴を観月さんは食べ始める。
食べるのに、左サイドの髪を耳にかける仕草に少しドキリとする。


「観月さんはあの二人のことどう思います?」

俺はそれから目をそらすように前を向いたまま聞くと、

「お似合いだしうまくいって欲しい。とは、思ってる…。」

と、煮え切らないような言い方をする。

人の恋愛ごとに他人が踏み込んでいくのもどうかとは思うが、
俺も人のことは言えないのかもしれないが箱入り育ちの雪代には、
姉御肌に鳴海先輩みたいな人が合ってると思う。

「けど、鳴海先輩正直あいつのことなんとも思ってないですよね」

「まーね。」

と答える観月さんを見ると、りんご飴で唇が艶めいていた。

お祭りに行きたい相手はいないのかなんて、聞いてくる観月さんに
適当に返事をしながら、俺は観月さんの唇から目が離せなくなっていた。


「観月さん…。」

気づいたら無意識に名前を呼んでいた。

そんな俺を目の前に、顔を赤面させ視線を落とす観月さんに

「観月さんせっかく今日は薄化粧だったのに、
りんご飴のせいで唇真っ赤だしツヤツヤになってますよ。」

と、言い無理やり顎を上げてこっちを向かせる。
さらに、真っ赤になった観月さんがギュと目を閉じた。

閉じた瞳を縁取るように生える長い睫毛。白い肌に真っ赤に光る唇。







キスしたい…。観月さんに。






俺は、そのままゆっくりと顔を近づける。










でも、唇に触れる数センチのところで、

観月さんの小さな肩が微かに震えているのに気付き、飛んでいた理性をなんとか取り戻し堪える。


慌てて、ハンカチを取り出すと観月さんの口を拭った。

観月さんは、雑に拭くな!と怒っていたけれど、もし俺がキスしていたら
もっと怒っていたんだろうか。
いや、きっと大きな目をさらに大きくして驚いた顔をするんだろうな。
なんて、思いながら観月さんをからかう。


怒りながら先に道へ行く、観月さんの小さな後ろ姿を見つめ後を追おうとすると


「お兄さん!」

声をかけられ振り返る。大学生くらいだろうか年上ぽい化粧の濃いのたぶん
世間一般的には綺麗と言われそうな女の人が立っていた。

「お兄さん一人?さっきの彼女?逃げられちゃったの?
うちも彼氏が来れなくなっちゃってさー。一緒に花火見てかない?」

逆ナンというやつだろうか。
周りを見渡すとすでに観月さんの姿が見えなくなっていた。

「急いでるんで。」

俺は、女の人を振り切って急いで人混みに入り観月さんを探す。


どっちに、行ったんだよ。あの人は…!

今さらからかって怒らせたことを後悔する。



少し先に見えるところで、周りが少しざわついていて、
人を掻き分けて行ってみるとそこには、あの金髪の男にお姫様だっこされた
観月さんがいた。男の首に腕を回して抱き抱えられている姿に嫌悪感が湧いてくる。

「観月さん!!」

叫ぶと、振り返った観月さんが

「違うの!足を怪我しちゃって郁斗が助けてくれたの。それで…。」

なぜか、困った顔で言い訳する子どもみたいに目を泳がせて言う観月さんを、
呆然と見つめる。

「なぁ、なんで君が付いててリンちゃん怪我して一人で泣くことになってんの?」

鋭い視線を俺に向けて男に言われる。

泣いてたなんて知らなかった。一人で泣かせてたなんて知らなかった。

俺を庇ってくれる観月さんの足を見ると、足首が赤く腫れていた。

俺が、悪いんだ…。

「花凛を困らせるだけなら、花凛に近づくな。
花凛はこのまま俺が連れて帰るから。」

困らせて怒らせて泣かせてた。


「すみません。お願いします。」

頭を下げる。悔しい。

去っていく、後ろ姿を見つめる。
なんで、あの時一人で先に行かせてしまったんだろう。
人で歩く観月さんの細い腕を掴んだこの手を離さなければ良かった。
俺の袖掴んで離すなって言ったのに…。


「クソッ」
小さく呟いた俺は右手を爪が食い込みそうなほどギュっと握りしめていた。






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