ツンデレな後輩なんて99.9%好きにならないから!
部活に着替えて行くと、ちょうど1、2年もお昼休憩だったらしくグランドに散らばって、各自お弁当を食べていた。
キョロキョロと周りを見渡すと、グランドの隅の木陰に座る。雪代くんの姿が見えた。
「雪代くん、広瀬は?」
声をかけると、こっちに気づいて顔をあげた雪代くんが
「あ、お疲れ様です。柊晴なら水道のほうに行きましたよ。」
と、微笑む。ほんと、お箸を持つ指先まで長くて細くて美しい子だ。
育ちのよさがにじみ出ている。
「ありがとう」
と、答えながら身を翻し水道へ向かう。
グランドを出て、水道の前まで行くと広瀬が洗った顔をタオルで拭いていた。
こっちに気づいて、タオルから顔を上げる。少しだけ濡れている色素の薄い前髪がキラキラして見える。
「昨日はすみませんでした。」
睫毛を伏せて、頭を下げる。
「顔あげてよ!あんた悪くないじゃん!」
「俺のせいです。俺が側にいたのに…。」
あたしは、広瀬に近づき俯いた広瀬の顔を覗きこんで、広瀬の形のいい鼻の頭を人差し指でツンと叩いた。
「こんな凹んでる広瀬初めて見た。あたしは大丈夫だから、ちょっと転んだだけでみんな大袈裟すぎ!」
にっこり笑って言うと、広瀬は顔をあげてあたしの怪我した足を見たあと、真面目な顔でこっちを見る。
「怪我はもういいんですか?」
「うん。大丈夫!あたし、そんなにか弱くないの知ってるでしょ。」
と、言いながらガッツポーズをして見せる。
広瀬は、軽く微笑むと
「そんな細腕でなに言ってるんですか。」
と、目を細めた。
広瀬のたまに見せる、ちょっと優しい表情嫌いじゃない…。ううん。けっこう好きだ。
「こちらこそ、広瀬あたしのせいで花火見てないんでしょ。ごめん…。」
「花火、観月さんは見ましたか?」
「うん。少しだけちょっと遠かったけど、郁斗と見た。凄く綺麗だったから広瀬に見せたかったな。」
広瀬は、少しだけ眉をひそめると、「そうですか。あの男と見てたんですね…。」とだけ答え
「そろそろ休憩終わりますよ。」
先に歩きだしていってしまった。
優しい表情から急にちょっと不機嫌そうな広瀬を見て、そんなに花火見たかったのかな…。なんて思いつつ、私はあとを追いかけた。