次期社長と訳あり偽装恋愛
「あのさー、梨音が用事があるから先に帰らせてもらうね」
「えー、もう帰っちゃうんだ。でも、用事があるなら仕方ないよね」
「そっか。気を付けて帰ってね」
先に帰るなんて言ったら場がシラケるかなと心配していたけど、全然そんな感じにはならなかった。
玲奈の友達が明るくフォローしてくれたからだ。
社交的で周りの空気を読める人でよかった。
「ありがとう。ホントにごめんなさい」
軽く頭を下げ、荷物を手に部屋を出た。
通路を歩いていたら、誰かに呼び止められた。
「梨音ちゃん、待って」
振り返ると能勢さんがいた。
どうしたんだろう。
「あの、なにか?」
「夜遅いから駅まで送るよ」
「えっ、大丈夫です」
わざわざ送ってもらわなくても一人で帰れるし。
「いや、送らせて欲しいんだ」
さすがに初対面の人にそこまでしてもらう訳にはいかない。
それに、私もバカじゃないので能勢さんが下心アリの人だっていうのは分かる。
「お気持ちだけで充分です。能勢さんは部屋に戻ってあげてください。みんな待ってますよ」
やんわりと拒否し、早く解放して欲しかったのに能勢さんはただでは引き下がらなかった。
「じゃあ、連絡先だけでも教えてくれない?」
「あ、今は充電が切れちゃってるのでごめんなさい」
「電話番号ぐらいは覚えてるよね?」