次期社長と訳あり偽装恋愛
この状況はいったい何?
私は突然のことに驚きながらも必死に足を動かした。
居酒屋から少し離れた場所まで来たところで立花さんは足を止めた。
「河野さん、大丈夫?」
「だ、大丈夫です。さっきはありがとうございました」
まだお礼を言っていなかったことに気付く。
あんな場面で助けてもらえるとは思わなかった。
ピンチに颯爽と助けに来るヒーローみたいだった。
「偶然、居酒屋で君を見かけて困っている雰囲気だったから声をかけたんだ。というか、あれはナンパ?」
「いえ、友達に急に呼ばれて行ってみたら合コンで……」
口ごもると立花さんは険しい表情になる。
やっぱり立花さんに話をしておけばよかったと後悔していたら、背後から鋭い声が聞こえた。
「おい、彼氏持ちのくせにウブそうな顔して合コンなんかに来るなよ。バカにすんなっての。お前も騙されてるんじゃないのか?その尻軽女に。まぁ、俺には関係ないけど」
能勢さんは私たちに文句を言いたかったのか、追いかけてきて悪態をつくとそのまま雑踏の中に消えて行った。
私は唖然としてその後ろ姿を見送った。
どうしてあんなことを言われないといけないんだろう。
さすがに傷つく。
それと同時に、能勢さんの態度の豹変にゾッとした。