次期社長と訳あり偽装恋愛

「完全に負け犬の遠吠えだな。たちの悪いやつがいるもんだ。河野さん、あんなやつの言うことは気にしなくていいよ」

立花さんは呆れたように呟くと、真剣な表情で私を見つめた。

「俺は河野さんの彼氏だから、彼女が合コンとか行くのは嫌だし心配でたまらない」

サラリと言われた言葉にドキッとした。

「家まで送ってあげたいんだけど、まだ居酒屋に荷物を置きっぱなしなんだ。あっ、今から取りに戻るから一緒に帰る?」

「いえ、そんなことまでしていただかなくても大丈夫です。ご迷惑をおかけしてすみません」

立花さんも居酒屋で誰かと一緒にいたんだ。
それを中断して私を連れ出してくれたんだからこれ以上、迷惑をかけれない。

「全然迷惑なんかじゃないよ。君を甘やかすのは俺の役目だから」

立花さんの優しさが胸を熱くする。
どうしてそんなことを言うの?
柔らかな眼差しを向けられ、何も言えないでいたら不意に着信音が耳に届いた。

立花さんはスマホの画面を見ると、「ちょっとごめんね」と言って電話に出た。

「もしもし。あー、悪い。ちょっと用事があって店から出たんだ。すぐ戻るよ。分かってるって、マキにもそう伝えて」

話の内容からして居酒屋で一緒にいた人だというのが分かる。
それより聞こえてしまった名前に胸騒ぎがした。
マキって誰なんだろう。
友達……いや、女の人かな。

あっ!
もしかしてマキって立花さんが片想いしている人かもしれない。
< 103 / 212 >

この作品をシェア

pagetop