次期社長と訳あり偽装恋愛
「ねぇ、梨音。能勢さんが言ってたんだけど……」
少し言いにくそうな感じで口を開く。
今、あの人の話は終わりって言ったのに何だろう。
「あの居酒屋に梨音の彼氏がいたって言ってたんだけど、ホントなの?」
窺うように聞いてくる。
そういえば立花さんが私を助けた時に能勢さんに向かって彼氏だと言っていた。
どんな風に能勢さんが玲奈たちに話したか分からないけど、誤魔化さない方がいいのかもしれない。
「言いそびれてたんだけど、つい最近出来たんだよね」
「マジで?この前まで彼氏欲しいか聞いたらよく分かんないとか言ってたのに」
「いや、そうだったんだけどなりゆきでね」
「えー、何それ!羨ましい」
玲奈は頬を膨らませる。
私は話しながらむなしくなっていた。
立花さんは偽装彼氏、ホントの彼氏じゃない。
それに、この関係はもうすぐ終わる。
立花さんの恋が成就したら偽装恋愛の解消をすることになると思う。
いつその事を切り出されるのか考えるだけで気持ちが落ち込んでくる。
それだったら、いっそのこと私から……。
「私なんて惨敗よ。てか、干場さんもあんな人だと思わなかった」
「どういうこと?」
干場さんは玲奈が気になっていた人だ。
苛立ちを含んだ言い方が引っ掛かった。
「能勢さんが梨音の悪口を言った時に同調するようなことを言ってたから」
そう言って目を伏せる。