次期社長と訳あり偽装恋愛
仕事が終わり、私は自分の席で一枚の名刺と睨めっこしていた。
さて、どうしたもんかな。
立花課長は私の連絡先を知らないから、こっちから電話しないと連絡が取れない。
でも、なんて言って電話すればいいんだろう。
『仕事が終わったんですけど、食事の予定はどうします?』とか、図々しいことを言える訳ないし。
参ったなぁ。
取りあえず、電話帳に携帯番号を登録しておこう。
スマホの電話帳を呼び出し、名刺を見ながら立花課長の連絡先を入力した。
「梨音先輩、まだ残っているんですか?」
いきなり声をかけられ、慌てて立花課長の名刺をポケットにしまった。
声をかけてきたのは友田泉、後輩だ。
小柄で胸元まで伸びたふんわりとしたブラウンの髪の毛、いつもニコニコ笑っていて可愛らしい今どきのザ・女の子という感じ。
常にアンテナを巡らせていて、社内の噂話とかいい男チェックには余念がない。
友田さんは彼氏持ちだけど、それとこれとは別らしい。
まぁ、そういうリサーチは仕事さえちゃんとやってくれたら問題はないと思うけど。
「あれ?今、何か隠しませんでした?」
友田さんに目ざとく気付かれ、焦ってしまう。
「いや、別に何も隠してないよ。買い物したレシートを見ていて、それをポケットに入れただけだから」
あまりいい案が浮かばなく、名刺をレシートとして言ってみた。