次期社長と訳あり偽装恋愛
「土曜のことだけど、あのあと変なヤツに声をかけられたりしなかった?」
「はい」
「そっか、ちゃんと河野さんの口から聞きたかったから」
あの日の夜、立花さんから無事に帰れた?というメッセージが送られてきた。
私のことを心配してくれる気持ちが嬉しかった。
それと同時に゛マキ〝さんのことが気になって、そっけない返事をしてしまった。
立花さんからしたら、せっかく連絡したのに何だよと感じてしまうような文章だったと思う。
でも、あの時の私はそういうことも気付けないぐらい気持ちが不安定だった。
今も、どういう態度を取っていいのか分からない。
出来ることなら、この場所から逃げ出したいぐらいだ。
「ところで、さっきから目が合わないのはどうして?」
立花さんがグッと距離を縮めてきた。
「そんなことはないと思いますけど」
「ホントに?」
視線をさ迷わせていた私の両頬に手を添え、しっかりと視線を合わせてきた。
真っ直ぐに見つめられ、心臓が張り裂けそうなぐらいバクバクと音を立てる。
「ほ、ホントですよ」
目を逸らしたいのに、それは許さないとばかりに顔を近づけてくる。
「ならいいけど。河野さんに避けられてるような気がしたから」
「……っ」
鋭い指摘に動揺して声が出なかった。