次期社長と訳あり偽装恋愛
「その顔は図星だな」
そう言って立花さんは小さくため息をつき、言葉を続ける。
「避けられる理由が思い当たらない。何か河野さんを不快にさせるようなことをした?」
立花さんの不安げに揺れる瞳を見て、私はなんて失礼なことをしてるんだろうと改めて実感する。
自分勝手な感情で立花さんを振り回すようなことをしてしまい、申し訳なさでいっぱいだ。
もう正直に話すしかないと思った。
「してません。私の気持ちの問題で……。いつまでも立花さんに頼っていてはいけないって思ったんです」
「どういうこと?」
「立花さんは恋から遠ざかってた私に恋のリハビリをしようと提案してくれましたよね。最初は戸惑いながらも、その言葉に甘えてしまいました。私が病気になった時も看病してくれたり、男の人に絡まれている時には助けてくれました」
立花さんは真意を探るように真っ直ぐに私を見つめ、話を聞いている。
「でも、この関係は永遠じゃないですよね。立花さんには気になっている人がいますよね。だったら、今のままじゃいけないと思います」
キュッと唇を噛む。
「気になっている人がそばにいるのなら、私なんかに時間を割かない方がいいと思います。立花さんは素敵な人だから、きっとその恋は上手くいくと思います。少しの間でしたが、私は立花さんと偽装恋愛出来てよかったです」
泣きそうになるのを必死に堪え、笑顔を見せた。