次期社長と訳あり偽装恋愛
これ以上、私の中で立花さんの存在が大きくなるのが怖い。
立花さんに直接、偽装恋愛を止めようと言われるより、自分から切り出した方が傷が浅いと思う。
自分勝手だとは思ったけど、弱い自分にもう耐えきれなかった。
立花さんだって私を相手にするより直接、好きな人にアプローチした方が断然いいと思う。
私との無駄な時間を過ごすより、自分の為にそれは使うべきだ。
私は立花さんのお陰で恋愛に対して前向きに考えられるようになった。
そして、また人を好きになれた。
私の想いは届かないけど、立花さんの背中を押してあげれたらと思う。
それが私に出来る唯一のことだ。
「それ、本気で言ってる?」
立花さんが発した言葉は低く冷たい声色だった。
どうしてそんなに怖い顔をしているんだろう。
私が言ってることは間違いじゃないと思うんだけど。
「はい」
「俺は……」
そこまで言って言葉をのみこんだ。
「俺のわがままに付き合わせてごめん。河野さんがそう言うなら従うよ……今はね」
最後の一言は声が小さすぎて聞き取れなかったけど、さすがに聞き返すことが出来なかった。
立花さんは腕時計に目をやる。
「あと、十分で昼休みが終わるから戻ろうか」
私は何も言えないまま、医務室を出て前を歩く立花さんの後ろ姿を見つめていた。