次期社長と訳あり偽装恋愛
過去を乗り越えて
立花さんに偽装恋愛解消を告げてから一ヶ月が経とうとしていた。
自分から言い出したくせに、ことあるごとに立花さんのことを思い出していた。
毎日のようにやり取りをしていたSNSがなくなった。
私の部屋でご飯を食べたり、お弁当を作ることもなくなった。
それが寂しいと思ってしまう自分自身に嫌気がさす。
何をするにも張り合いがなく、心にポッカリと穴が開いたみたいだ。
偽装恋愛する前の自分は何をやっていたのか思い出せないぐらい、立花さんは私の生活の中に入り込んでいた。
そんな状態だったので会社で立花さんに会ったらどうしようなんて思っていたけど、その心配は全くなかった。
というのも、今、立花さんは海外にいる。
立花さんの前の部署、海外事業部のヘルプで三週間ほど海外出張に行っているらしい。
医務室での出来事の翌週、用事がありドキドキしながら営業部に行くと立花さんの姿がなかった。
ふとホワイトボードに目を向けると、立花さんのところには海外出張の出発日時などが書かれていた。
それを見ると、私との偽装恋愛を解消してすぐに海外に行ったことになる。
「……ん、梨音てば!」
「へっ?」
「何度も呼んでるのに上の空なんだけど。どうかしたの?」
呼ばれたことも気がつかずに考え事をしていたので、舞が心配そうに聞いてくる。