次期社長と訳あり偽装恋愛
「ふふん。私、今日で二十歳だもん。ここに来るの解禁だし。ということで、朔ちゃん。カシスオレンジちょうだい」
もう未成年だから出入り禁止なんて言わせない!
いつにも増して強気な私は、前から気になっていたお酒の名前を口にした。
「そうか、今日が誕生日か。おめでとう」
朔ちゃんに笑顔で言われ、顔が綻ぶ。
「ありがとう」
誕生日におめでとうと言ってもらえるのは嬉しいものだ。
「梨音、もしかしてまだ諦めてなかったのか?」
「そうみたいだな」
ため息をつきながらお兄ちゃんが隣に座っていた人に話しかけると、その人は苦笑いする。
「諦める訳ないでしょ」
「俺は断ったと思うんだけど……」
「でも、昴くんは私が二十歳になったら考えてくれるって言ったよ」
「お前、梨音にそんな適当なこと言ったのかよ」
お兄ちゃんは呆れたように言う。
「言ったかな?」
「言ったよ!」
思わず、大きな声を出してしまう。
私は十六歳の時、電車で見かける同い年ぐらいの人に恋をした。
だけど、私の初恋は告白する前にあっけなく散った。
なぜなら、向こうに彼女がいるという事実を偶然知ったからだ。
その時のことを教訓に、次の恋は全力で気持ちをぶつけていくと決めていた。
そして、私は二度目の恋をした。
その相手とは、槙田昴くん。
お兄ちゃんの友達だ。