次期社長と訳あり偽装恋愛

「昴くん、今までごめんね。私、自分のことしか考えてなかった。もう昴くんに迷惑をかけるようなことはしないから安心して。朔ちゃん、ごちそうさま」

「え、梨音。全然飲んでないじゃないか。それに、お金は……」

「じゃあ」

朔ちゃんの言葉を聞き終わる前に私は逃げるように外へ出た。

胸が痛くて、次から次へと涙がこぼれ落ちる。
どうしてこんなにつらい思いをしないといけないんだろう。
やっと二十歳になって、対等に私のことを見てもらえると思っていた。
でも、それは昴くんの気持ちを無視した、私の勝手な願望だった。

それはそうだよね。
私は目の前の恋に夢中で、冷静に周りのことが見えてなかった。

どうしてお兄ちゃんに言われるまで気づけなかったんだろう。
自分の気持ちを押し付けていた……。
確かにその通りでぐうの音もでない。

私がお兄ちゃんの妹だから邪険に扱えないし、強く断れなかったのかもしれない。
自分の未熟さに後悔するばかりで、昴くんに会わせる顔がない。
ごめんね、昴くん。
頬に流れる涙を拭い、足早に家路についた。

私の二度目の恋は無残に散り、それから恋をして自分の気持ちを相手に伝えることが怖くなったんだ。
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